ウシクに敗れたアンソニー・ジョシュアの不可解言動:王者やウクライナへの敬意とないまぜとなった負の感情

Daniel Yanofsky

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日本時間8月21日朝、サウジアラビア・ジェッダで行われたWBAスーパー・IBF・WBO世界ヘビー級統一王座のダイレクトリマッチで、アンソニー・ジョシュア(英国)は王者オレクサンドル・ウシク(ウクライナ)に判定で敗れた(115-113、116-112、113-115の2-1)直後、不可解行動をとった。ジョシュアは勝利者スピーチを横取りし、ベルトをリング上から投げ捨て、関係者が謝罪に追い込まれるような不適切な暴言を吐いたのだ。その内容と顛末をダニエル・ヤノフスキー(Daniel Yanofsky)記者が伝える。

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敗北で我を忘れたヘビー級のスーパースター

ある時点で、アンソニー・ジョシュアは世界の頂点に立つ、現代のボクシングヘビー級を牽引する存在だった。彼は幾度かの挫折に耐え、その度に適応してきた。だが、オレクサンドル・ウシクとの再戦において、ジョシュアは以前の栄光を取り戻すことができなかった。

ウシクは、WBAスーパー・IBF・WBO、およびIBOのヘビー級タイトル防衛、スプリットディシジョン(2-1判定勝ち)でジョシュアを退けた。 彼はまた、タイソン・フューリー(英国)の引退によって空位となっていた名門誌『The Ring』認定の同級ベルトを獲得した。ボクシングデータベースサイトの『CompuBox』によると、総パンチ命中数はウシク170、ジョシュア124と圧倒的な大差がついた。

試合直後、明らかに敗北に動揺し、怒りを露わにしたジョシュアは、一旦リングを降りて退場しかけたが、急遽リングへと戻り、試合後の勝利者インタビューを乗っ取った。最初、ジョシュアはウシクの勝利に敬意を示すように、彼の母国ウクライナの国旗を肩に羽織っていた。ところが、勝者のウシクより先にマイクを握り、スピーチを開始するとジョシュアは自身のボクシングのキャリアについてまくしたてたのだ。

「私は(ウシクのように)5歳の頃から有望視されていたアマチュアボクサーではなかった。かつて刑務所に行き、保釈金を受け取り、(18歳で)トレーニングを始めた。戦えるようになりたいと思ってきた」

「ウシク、申し訳ない。これ(ウクライナ国旗)借りてしまっていて。ただ、これ(ウクライナ)のために、私たちは(試合に)情熱を注いだんだよな」と話し、ロシアの軍事侵攻によって戦地となっているウクライナへの敬意を示した。

「今夜、私を打ち負かしたこの男は、もしかしたらもっとうまくやれたかもしれないが、私からしたら相当ハードなレベルを示した。だから、ヘビー級世界チャンピオンとして、彼に拍手を送ってやってくれ」と話し、観衆にウシク・コールを促した。

そして、ウクライナのために戦うというウシクの大義に協力したいとも述べ、ウシクの友人で、この再戦を見守った同国の元世界3階級制覇王者ワシル・ロマチェンコについても触れた。

実はロマチェンコとは試合直後にやりとりがあった。ロマチェンコから良い試合だったと慰めの言葉を投げかけられたジョシュアは、「知るかクソ!良いボクシングは勝つことだろ」と暴言を吐き、次第に激昂。関係者に促され一旦退場しかけたものの、リングに舞い戻り、この不可解なスピーチ強奪劇につながった。

感情的なゆらぎからか、ジョシュアはウシクを称賛し、支持した一方で、スピーチの途中に自分自身についての言い訳を挟んだ。

「私は12ラウンドを戦う(長期戦の)ファイターではない。私(身体の大きさ)を見てくれ。私は新種のヘビー級ファイターなんだ。マイク・タイソン、ソニー・リストン、ジャック・デンプシー、そしてロッキー・マルシアノのようなコンビネーションパンチなんてものは繰り出せない。身体が重くてそんな芸当はできないんだ」とジョシュアは自嘲した。

そして、それができるのがウシクだとばかりに、「ここにいるこの男(ウシク)は驚異的な才能だ。我々は、彼を3度称賛しよう」と口にすると、再び観衆にウシクへの声援を送るように促した。英国人らしい皮肉も感じさせる言動だっだが、それがジョシュア自身を冷静にすることはなく、IBFと『The Ring』誌認定王座と2つのベルトをつかむと、リング下へと投げ捨てたのだ。これらのジョシュアの実際の発言にはFワード(不謹慎な俗語)も多分に含まれており、英国の試合中継を行った『Sky Sports』は番組中に謝罪するはめになった。

こうした混乱から、勝利者であるはずのウシクがスピーチを行うまで時間がかかった。ジョシュアの不可解な言動については触れなかったが、WBC王座を保持したまま引退を決め込んでいるタイソン・フューリー(英国)について言及する。

「タイソン・フューリーはまだ引退していないと確信している。フューリーとやりたい」と述べ、4団体統一戦の舞台に戻ることを要求。これに呼応するように、フューリーは自身のInstagramのストーリー機能で、「ジプシー・キングはここにいるぞ、永久に!」と宣言しており、両者の今後の動向が注目される流れとなった。

さらに両者のやりとりが期待されたが、同日にフューリーの従兄弟が刺殺される痛ましい事件が英国で起きたため、ナイフ犯罪の撲滅を訴え、喪に服している。

引退否定のジョシュアが描く復帰プランは?

暴走劇から少し時間をおいたその後の記者会見でジョシュアは、涙を堪えながら敗北に動揺してしまったと述べた。プロモーターであるマッチルームのエディ・ハーン氏も、ジョシュアの暴走スピーチに賛同はしなかった。ジョシュア本人は今回の不可解な言動で何を話したか覚えていないと答えるなど、感情的に爆発してしまったことを明かし、すべてを言い尽くす前に、3度目のヘビー級チャンピオンになると誓った。

戦いの結果に深く失望しながらも、まだこの競技から離れるつもりはないことを明言した。11月か12月には復帰したいとも述べている。

ハーン氏は、「彼(ジョシュア)ほどスポーツに専念している人物はほかに居ないし、彼の肩にのしかかっている人々からのプレッシャーを理解していない人もいますが、彼は決して挑戦を避けたり、そうしたプレッシャーを避けたりしませんでした」と擁護。ジョシュアが暴走したのも「彼も人間で、多くのプレッシャーに押しつぶされ、爆発してしまっただけだ」とおもんぱかった。

たとえジョシュアがこの夜暴走したとしても、それでもネットで好き勝手に誹謗中傷するような輩とは違う、尊敬すべき人物であることを主張した。

「彼は常に人々のために時間を割こうと努力し、常に次世代にインスピレーションを与えようとしてきました。彼は素晴らしいアンバサダーですよ」と話し、ジョシュアが世の子どもたちにとってのロールモデルであり続けると支持している。

ジョシュアは自身のInstagramに敗戦後の暴走劇について弁明を投稿した。

「ウシク、あなたのさらなる活躍を願う。君は一流のチャンプだ。

私は昨日、精神的にうす暗い場所に自分を追い込まなければならなかった。チャンピオンベルトを取り戻すために! ただ、ウシクとの戦いと自分の感情との戦いの2つがあり、どちらも負けてしまった。

最初に認めるが、私は自分自身を失望させた。純粋な情熱と感情から行動し、それをコントロールできなければ、素晴らしいとは言えないから。私はこのスポーツを深く愛しているし、これからもっと良くなっていくだろう」

年末復帰を希望するジョシュアの具体的な復帰プランは現時点で定かではないが、地元英国のメディアである『Express』などは復帰戦の相手としてディリアン・ホワイト(英国)やデオンテイ・ワイルダー(米国)の名を挙げている。

ビジネス面ではジョシュアは、スポーツ動画配信大手の『DAZN』と1億ドル(約137億円)の契約を結んでおり、同社の株主、特別顧問、およびブランド大使に就任している。ボクシングコンテンツの世界的な拡大のためのDAZNの戦略的諮問委員会にも参加するなど、リング外で継続的にボクシング界にかかわる立場にあることは確かだ。

原文:Inside Anthony Joshua's bizarre post-fight speech after loss to Oleksandr Usyk: Respect for champ, tribute to Ukraine & more
翻訳・編集:スポーティングニュース日本版編集部
※当記事は、オリジナル記事を翻訳し、一部追加情報を加えた日本版記事となる。

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