2023年スポーティングニュース年間最優秀アスリート賞に大学女子バスケ選手のリースとクラークが選出

Mike DeCourcy

石山修二 Shuji Ishiyama

小座野容斉 Yosei Kozano

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Angel Reese, Caitlin Clark

 『マーチマッドネス』の名で知られる米国大学バスケットボールの全国大会であるNCAAトーナメントの2023年女子ファイナル4の大観衆の中に、多くの有名人が紛れ込んでいたことは予想外でも珍しいことでもなかった。ファーストレディであるジル・バイデン大統領夫人とテニス界のファーストレディであるビリー・ジーン・キングは、このタイトル戦のためにテキサス州ダラスまで足を運んだ。

ダーク・ノビツキー(元NBAダラス・マーベリックス)、エイジャ・ウィルソン(WNBAラスベガス・エーシズ/2021年バスケ女子五輪金メダリスト)、パウ・ガソル(元NBAロサンゼルス・レイカーズほか)、シェリル・スウープス(WNBAの最初の契約選手/元ヒューストン・コメッツ)といったバスケットボール界の伝説的な選手たちもこの場に集まった。

しかし、この日のLSU(ルイジアナ州立大)とアイオワ大の試合を特別なものにしたのは、ユニフォームを着て優勝のためにプレーをした2人の選手が、この建物にいた中で最も有名な人物だったからだ。

アイオワ大のガード、ケイトリン・クラークとLSUのフォワード、エンジェル・リースはスター選手だ。クラークは、 損害保険ステートファーム社で有名なキャラクター『ジェイク 』と共に全国ネットのテレビCMに起用され、スーパーボウル王者のパトリック・マホームズ(NFLカンザスシティ・チーフス)やNBAオールスターのクリス・ポール(NBAゴールデンステイト・ウォリアーズ)と並ぶ知名度を獲得していた。一方のリースは『ティーンヴォーグ』誌や『スポーツイラストレイテッド』誌の、恒例の水着特集号で写真グラビアと記事を掲載されていた。

コート上の活躍に目を移せば、このまま負傷せずに現在の天文学的なペースで成績を残し続ければ、クラークは来年2月下旬にはワシントン大時代のケルシー・プラム(WNBAエーシズ)を抜き、NCAAディビジョン1女子史上最高の通算得点選手となる。彼女は通算アシスト数でも6位以下になることはなく、得点とアシストでトップ10に入る史上唯一の選手になるだろう。彼女はNCAAトーナメント一大会での最多得点記録も保持している。

かたやリースは、女子ファイナル4で最優秀選手賞に輝き、オールアメリカン・ファーストチーム(全米ベスト5)にも選ばれた。昨シーズン、彼女はリバウンドで全米2位、得点で全米5位にランクされ、決勝戦で今季34回目となるダブルダブル(主要個人スタッツ2部門で二桁数字を記録すること)をマークし、NCAA記録を樹立した。大学2年まで在籍したメリーランド大ではビッグテン・カンファレンス、3年時には転校したLSUでSEC(南東カンファレンス)と、2つのメジャーカンファレンスでオールカンファレンスチーム(地区ベスト5)とオールディフェンシブチーム(地区の守備選手ベスト5)を受賞している。クラークとリースの2人のうち、NCAA優勝リングを持っているのはリースのほうだ。

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2023年4月2日、この2人が全米王座をかけて対戦したことがビッグニュースとなったのは、観戦していたビッグネームたちの存在よりも、自宅でテレビ観戦した何百万人もの視聴者の数だった。

この中継の平均視聴者数は1000万人弱に上り、同年の大学アメリカンフットボールのローズボウル(ペンシルバニア州立大vsユタ大)やNBAファイナル第4戦(デンバー・ナゲッツvsマイアミ/ヒート)とほぼ同レベル、ESPNが1996年に女子バスケットボールの放送を始めてからの実績と比べて2倍近い数字に跳ね上がっていた。

Caitlin Clark & Angel Reese
Getty Images

ケイトリン対エンジェル、アイオワ大対LSUは一大イベントだった。そしてそれは、試合終了のブザーが鳴ってからも続いた。

スポーティングニュース(TSN)は、2人の女子バスケットボールへの影響力、さらにはスポーツ界全体への影響力から、ケイトリン・クラークとエンジェル・リースを2023年の年間最優秀アスリートに選出した。

2人は、サッカーのスーパースター、リオネル・メッシ(2022年受賞)、MLBの大谷翔平(2021年受賞)の後継者となり、レブロン・ジェームズ、トム・ブレイディ、マイケル・ジョーダン、ジャッキー・ジョイナー=カーシーらに名を連ねる存在となった。

「私はその場で試合を観戦していました。ケイトリンと私は友人で、エンジェルは驚くべき存在です。.ゲームの成長、両陣営の素晴らしいアスリートを見るだけで、正直、笑顔になりました」と、バスケットボールで有名になった初の女性選手ナンシー・リーバーマン氏はTSNに語った。

「(女子スポーツである)この競技がこれほどまで発展し、大勢の人にアピールできる主流のスポーツとなったのを目の当たりにするのは本当に素晴らしいことです」

990万人視聴のインパクト

エンジェル・リースには、NCAAトーナメント決勝戦をプレーしている間、コートの外で何が起こっているかを理解する方法はなかった。会場のアメリカン・エアラインズ・センターのチケットは完売。詰めかけた観衆は十分に熱狂的だった。それでも、会場がLSUのファンとアイオワのファン、そしてどちらにも思い入れのない人々に分かれていたため、その場の雰囲気は決して圧倒されるようなものにはならなかった。

その試合が圧倒的なものだったと判明したのは翌日のことだ。LSUの優勝を祝う声が、試合のテレビ視聴率の報道によってエスカレートしたのだ。

これほど大勢の視聴者がこの試合を観ていたとは誰も想定していなかった。

「そうですね。990万人があの試合を観戦したというのはクレイジーでした」とリースはTSNに語った。

「そんな状況に出会えるなんて、本当にクレイジー。私が言いたいのは、どっちが勝っても負けても、私たちは歴史を作ったということです。両チームともです。年老いて40年経った後で、ロッキングチェアに座りながら、自分たちがどれだけ特別な瞬間の先駆者であったのかを噛みしめることになると思います」

それこそが、LSU対アイオワ大のような試合が将来にもたらす約束だ。エンジェル・リースとケイトリン・クラークに興味を持ち、2023年4月の日曜日の午後にその試合を観戦した多くの人々が、女子バスケットボールにもっと関心を向けるようになるだろう。これだけの視聴者数がこの先記録されることはないかもしれないし、次にリース対クラークのような魅力的な対決が実現するのはしばらく先になるかもしれなくても、だ。

大学バスケットボールは、1979年の男子NCAAトーナメントでマジック・ジョンソンとラリー・バードの対決が達成した視聴者数4000万人という大台に再び到達することはできていない。だが、そのおかげで『マーチ・マッドネス』(3月の狂騒。大学バスケの熱狂ぶりを表す言葉)は1か月間アメリカを熱狂の渦に巻き込む爆発的なブームとなった。

米国女子代表が優勝した1999年のサッカー女子ワールドカップ決勝を観戦した1800万人の観客はこのスポーツを一躍有名にし、ミア・ハムやブランディ・チャステインといった国民的スターを生み出した。さらに、カーリー・ロイド、アレックス・モーガン、ミーガン・ラピノーのような後継者を生み出した。

「私がプレーしていた頃は、テレビ放映される試合は1シーズンに1試合だけでした。今は、ほとんどすべての試合を何らかの形で見ることができます」とLSUのキム・マルキー・ヘッドコーチはTSNに語った。

「今の女子大学バスケットボールでは、すべての選手がスポーツを超えたブランド価値を持っていて、新しい観客をスポーツに引きつけることができるようになったと思います。エンジェル・リースやケイトリン・クラークのような、バスケットボールを見るのが楽しくなる選手がいて、彼女たちの存在がファンを虜にしています」

確信を持って突き進むエンジェル・リース

リースがバスケットボール選手になるのは、ほぼ必然だった。彼女の母親も同じエンジェルという名前で、メリーランド大学ボルティモアカウンティ校で背番号10を永久欠番にした選手だった。弟のジュリアンはメリーランド大3年生のパワーフォワードだ。

大学進学時には全米No.2の有望株と言われたリースは、メリーランド大で大学選手としてスタートした。2年生の時には1試合平均17.8得点、10.6リバウンドを記録し、23勝9敗でNCAAトーナメントでスウィート16(ベスト16)に進出した。それだけの成功を収めつつも、センターであるシャキーラ・オースティンが転校し、リースがチームで一番大柄な選手となったため、彼女はメリーランド大を去る決断をした。

「時にはものごとから卒業することもあります」とリースはTSNに語った。

「メリーランド大にいるのが大好きでした。雰囲気もそうだし、家族が試合を見に来ることができたから、メリーランドのすべてが好きでした。でも、一歩踏み出して、自分自身に集中し、優先順位をつける時期だったと思います。次のレベルであるWNBAでは、5番(センター。チームで最も大柄な選手が務めるポジション)でプレーすることはない。だから、自分のプレーを伸ばしたり、より多彩な選手になることができるようにしたかったんです。 心機一転、新たなスタートを切るというのが、私の望みでした」。そしてリースはメリーランド大からLSUに転校した。

彼女は、LSUの公式戦でゴールを決める前から、即座にセンセーションを巻き起こした。

Angel Reese
(Getty Images)

「シーズン開幕前の練習の最初のスクリメージ(実戦形式の練習)で、エンジェルは最初の10分間で15リバウンド以上を記録したと思います」とマルキーHCは振り返った。

「彼女はまるでバックボードを支配する野獣のようで、チームを引っ張ることができるタイプの選手でした。昨年は9人の新戦力がいて、エンジェルもその1人でした。けれど、彼女は勝利のために必要なことは何でもする準備ができていました」。

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2022-2023シーズン開幕戦のマクニーズ州立大戦で最初の得点を決めたリースは、その試合でキャリア初の30点ゲームを記録するまで止まらなかった。自己最多の36得点を記録した対ミシシッピ大戦を含め、この年は5度の1試合30得点を記録した。また、1試合20リバウンド以上を6度記録。NCAAトーナメント2回戦のミシガン大戦では、25得点、24リバウンド。これはミシガン大のチーム全体のリバウンド数よりも多かった。

「エンジェル・リースのプレーを見るのは素晴らしい」とリーバーマン氏は言う。

「ファンが目にする外見の美しさだけを言っているのではありません。彼女のプレーと粘り強さには美しさがあります。彼女は偉大さを求めるメンタリティを持っています。エンジェル・リースには信じられないほどの特権があります。彼女はこの先、何世代にもわたってこのゲームを盛り上げていくはず。私はその責任をプレッシャーとは呼ばず、あえて特権と呼んでいます。彼女はとても特別な存在なんです」

ファイナル4でのLSUとアイオワ大の対戦やエンジェルとケイトリンの対決は、決して確実なものではなかった。どちらの大学もNCAAトーナメントの各ブロックで第1シードではなかった。サウスカロライナ大は全米で圧倒的な強さを誇り、レギュラーシーズンの試合では、リースのLSUに24点差で勝利するなど、完璧な成績でファイナル4に臨んでいた。

準決勝でアイオワ大がサウスカロライナ大相手に予想外の勝利を収めたことで、リースと彼女のチームメイトは、レギュラーシーズンのリベンジを果たせなくなった。しかし、彼女たちはもっと良いものを手に入れた。シーズンを通してケイトリン・クラークを照らし続け、アイオワ大がマーチ・マッドネスを突き進むにつれて輝きを増してきたスポットライトを奪い取るチャンスだった。

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ケイトリン・クラークとアイオワ大の熱狂

アイオワ大の本拠地カーバー・ホークアイ・アリーナで行われた全米3位アイオワ大と2位インディアナ大とのレギュラーシーズン最終戦残り1.5秒の時点でも、クラークはすでに彼女の大学、アイオワ州、女子バスケットボール界で驚異の存在として認知されていた。だがその夜から、クラークの驚異は女子バスケットボールに関心を持たない人々にも広がり始めた。

アイオワ大にビッグ10カンファレンス優勝の目はなかった。インディアナ大はすでにカンファレンスで16勝1敗と首位の成績を収めていた。だからといってこの試合は消化試合にはならなかった。ESPNの名物スポーツ番組『College Gameday』がこの週の土曜日にアイオワシティからこの試合を放送したこともあって、両チームは最初の39分58.5秒の間、このスポーツのすべてをかけてプレーしているかのように戦った。インディアナ大のオールアメリカン、マッケンジー・ホームズが2本のフリースローを決め、インディアナ大が85-83とアイオワ大を2点リードする状況になった。

この後のクラークのプレーは、2024年のNCAAトーナメントでもっと大きな結果を見せない限り、彼女のアイオワでの象徴的瞬間として人々の記憶に残り続けるだろう。フロントコートのサイドラインからのインバウンドプレー(スローイン)で、クラークはボールと反対側のコーナーから動き出すと、ウィングのマッケナ・ワーノックの素早いゴーストスクリーンの後ろに滑り込み、センターのモニカ・ジナーノの強力なスクリーンの後ろにディフェンダーを埋もれさせ、右ウィングからオフバランスの3ポイントショットを狙った。ボールはそのままネットをすり抜け、アイオワ大が劇的な逆転勝ちを飾った。

「インディアナ大戦では文字通り空席がなく、ファンは熱狂していました。ある意味、エネルギーが違うように感じました」とクラークはTSNに語った。

「ミネアポリスで開催されたビッグ10トーナメントにはアイオワシティから4時間かけて行ったのですが、会場のチケットは売り切れで、(アイオワ大の)黒と金色で埋め尽くされていました。とても信じられないことです。私たちのファン、そして私たちが築き上げたものに対するもうひとつの証しだと思いました」

「地元に戻ってきてNCAAトーナメントを2試合こなしたときには、もうチケットを手に入れるのは不可能でした。(リージョナルファイナル/3回戦と準々決勝が行われた)シアトルに行く頃には、何が起こるかわかりませんでした。シアトルに着くと、またアイオワ大のファンが大勢いました。『この人たちは本当に私たちを愛してくれているんだ』って思いました。そしてダラスに着くと、今まで見たこともないような光景が広がっていました。チケットを手に入れるのがとても難しかったから、試合会場に入れないにもかかわらず、それでも、その場にいるためだけに、アイオワからダラスまで車を走らせていたファンがいっぱいいたんです。一緒に経験したいという思いだけで」

「それがどんどん大きくなっていきました。私たちが成し遂げたことの大きさを理解するのは難しかったです」

クラークの魅力は、彼女が1年目のシーズンに初めてコートの中央ロゴ上からの3ポイントショットを打って以来、高まり続けてきた。ウェストデモイン出身の183cmのガードとして大学のキャンパスにやってきたときから、彼女のプレーには大胆さがあった。ディビジョン1への適応期間は不要だった。最初の5試合、そのうち3試合は有名校が相手だったが、平均29.8得点を記録した。シーズン終了時には、アイオワ大をビッグ10カンファレンストーナメントの決勝と、NCAAトーナメントのスウィート16に導き、ディビジョン1で得点1位、アシスト3位を記録した。

NBAレジェンドのピート・マラビッチ氏がLSU時代に大活躍し、リーバーマン氏がオールドドミニオン大で試合をコントロールし、優勝を勝ち取っていた1970年代から借りてきたようなバスケットボールのスタイルで、クラークはプレーしている。

Caitlin Clark
(Getty Images)

「ケイトリンには他の選手にはない、あるいは持っていたとしても、あえて見せようとしない、自分自身への確信を持ってプレーしています」と、アイオワ大のリサ・ブルーダーHCはTSNに語った。

「彼女はこのゲームが大好きで、それを表に出そうと思っています。彼女のようなプレーをするためには、自分自身へのある種の確信を持つ必要があると思います」

クラークは、ミッドコートラインを越えればシュート射程圏内と言える稀有な選手の1人だ。彼女はキャリアで400本以上の3ポイントショットを決めており、これは彼女の総得点数の3分の1以上を占める。彼女が決めてきた3ポイントショットの総距離を考えると、ボーナスポイントを与えてもいいのではと思うほどだ。

「何回言ったのか数えられないくらい、『オー・ノー』『オー・イエス!』を繰り返していました。でも、その反応は最初の頃だけで、今ではもっと期待するようになりました」とブルーダーHCは言う。

「はじめの頃は、『1年生がそんなプレーをするべきじゃない』と感じていました。そこから、どうしたら彼女をよりよくコーチできるかを学んで、彼女が何を吸収しているかを理解しました。『ああ、ダメだ』と受け入れなくてはいけないときもあります。それが時には『ノー』になり、時には『イエス』になる。そして『イエス 』のときには、そこから大きな勢いが生まれてくるのです」

観客が増えるにつれ、クラークは現在の大学スポーツ界で最も知名度の高い人物となった。2022年に(大学アメリカンフットボールの年間最優秀選手賞である)ハイズマン・トロフィーを獲得し、トヨタ自動車やドクター・ペッパーのCMに出演したが、メディアを避けてきたUSC(南カリフォルニア大)のケイレブ・ウィリアムズや、男子の年間最優秀選手に贈られるネイ・スミス賞を受賞したパデュー大のセンター、ザック・エディーよりも、だ。

その活躍で、大学スポーツ界では珍しいスターダムがを手にしただけでなく、この10年でNCAAのルールが変更されたこともあってビジネス的にもプラスとなった。

「彼女は期待通りにうまく対処していると思います」とWNBAコネチカット・サンのヘッドコーチであり、ESPNで女子NCAAとNBAのアナリストを務めるステファニー・ホワイト氏は言う。

「彼女は、その優れた資質を注ぎ込んでくれる賢い人々に囲まれています。ソーシャルメディア上では、愛と憎しみの渦に巻き込まれ、常に監視され、率直な話、彼らは彼女が失敗するのを待っています。それでも、彼女はそれに優雅に対処しています。これ以上と言うものがあるかはわかりませんが、彼女はより競争的になっていますし、そのプレーはより完成されたものになっています」

「そういう選手はダイアナ・トーラジが最後でした。トーラジについて考えてみてください。 ツイッター? X? インスタグラム? それらはいずれも存在していませんでした。確かにインターネットはありましたが、ソーシャルメディアはまだありませんでした。だから大学レベルでも、プロになったばかりの頃でも、女子バスケットボールファンでない人は、トーラジが見せていた強みや闘志を目にすることはなかったかもしれません」

「でも、ケイトリン・クラークにはソーシャルメディアがあります。そして彼女は、私たちが女性アスリートに関するソーシャルメディア上の意見を受け入れようとしている時代に、たまたま現れました。女子バスケットボールに注目が集まっていた時期に、たまたま彼女が居合わせたのです。率直に言って、この女子バスケというスポーツ、女子スポーツ全般にとっての転換点でした。彼女は、私たちがこれまで女子バスケットボールで見てきたのとは違うタイプの選手です。スー・バードとダイアナ・トーラジを混ぜ合わせたら、ケイトリン・クラークになると思います」

リース vs. クラークが照らし出した「女子アスリート」の未来

一方がパワーフォワード(エンジェル・リース)で、もう一方がポイントガード(ケイトリン・クラーク)というバスケットボールのスーパースター対決では、試合前の宣伝が示すほどは、コート上で2人が交わることはあまりなかった。あの有名なマジック・ジョンソン対ラリー・バードのNCAA王座決定戦では、(マジックの)ミシガン州立大はマンツーマン・ディフェンスさえしなかった。テニスのクリス・エバートとマルチナ・ナブラチロワのようなライバル関係の美点は、決勝トーナメントで60回も対戦し、コートに他に誰もいない状況で直接対決することに起因した。

そのため、4月の女子NCAAトーナメント決勝戦では、クラーク対リースの直接対決はあまり見られなかった。クラークが30得点、8アシストを記録しても、アイオワ大は17点差(102-85)で敗れた。リースも15得点、10リバウンドを記録したが、LSUが決勝で勝った最も大きな理由は彼女ではなかった。LSUの控えガード、ジャスミン・カーソンが、3ポイントショット6本中5本を含む22得点をあげ、その日の主役となったのだ。彼女はトーナメントの過去3試合では得点を挙げていなかった。

だからと言って、「スターの戦い」が最後まで決勝のステージで見られなかったわけではない。

Angel Reese
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試合終了間際、LSUの勝利が確実となったとき、リースは顔の前で手を振り、プロレスのWWEのチャンピオンだったジョン・シナお得意の煽りである"You can't see me"(お前が俺を見ることはできない)のジェスチャーをした。これはクラークがエリート8(準々決勝)でルイビル大に勝利したときにやっていたのだが、今度は彼女がそれを見せつけられた。リースはまた、右手の薬指を指差し、優勝を意味するチャンピオンリングがもうすぐそこにあることを皆に示した。

これは、2020年1月の大学アメリカンフットボール王座決定戦の終盤、LSUのクォーターバックだったジョー・バロウ(NFLシンシナティ・ベンガルズ)が見せたポーズだ。2022年2月、ロサンゼルス・ラムズのスーパースター、アーロン・ドナルドがついにスーパーボウル初優勝を決めたとき、彼は左手を頭の上に掲げて同じことをした。

ホワイト氏は、1999年に彼女が在籍したパデュー大のチームが優勝したとき、「私たちは同じことをしました。違う指だったかもしれませんが。皆でやりました。けれども誰も見ていませんでした」と語った。

だが、リースの行動に対する反応は素早く、時には激しかった。

『Barstool Sports』の創設者であるデイブ・ポートノイ氏は彼女を "classless"(品がない)と呼び、そのツイートでさらにひどい冒涜的な言葉を続けた。元スポーツキャスターのキース・オルバーマン氏のツイッターでのコメントはさらに冒涜的で、少なくとも同様に侮辱的だった。

「私はあまり驚かなかったと思います。なぜなら、私はこの1年の間にしてきたたくさんのことでずっと批判されていたので」とリースはTSNに語った。

「私はトラッシュトーカーなんです。それが私。多くの人はそれに慣れていません。人々はスポーツをする女性にそれを期待していないと思います。(性別が)ひっくり返って、これが男だったら、話題にもならなかったでしょうし、何も言われなかったでしょう」

クラークは、リースに向けられた暴言を知ったあと、対戦相手だった彼女を擁護し、懸命に戦った彼女を批判する理由はないと主張した。そして、トーナメントを通してトラッシュトークをしたのは彼女たちだけではないと指摘した。それが何十年も続いているこのスポーツの文化だ。

「エンジェルは素晴らしいと思います。そして素晴らしい選手がたくさんいたからこそ、多くの人が試合を見ようとチャンネルを合わせたんだと思います」とクラークはTSNに語った。

「正直言って、コート上で素晴らしかったのは私とエンジェルだけじゃありません。私には本当に素晴らしいチームメイトがいました。彼女にも本当に素晴らしいチームメイトがいて、その両チームが決勝でぶつかったんです。だから守るのは大変でした」。

「心から彼女を素晴らしいと思っています。バスケットボールにとっても素晴らしいことだと思います。競争の炎、それは必要なことです。アイオワ大とLSUだけでなく、他の多くのチームにも広がることを願っています。すべてのトップチームで、人々が感情を示し続けることができることを願っています」

試合が終わり、選手たちと一緒に優勝トロフィーを受け取る前に、マルキーHCはクラークを脇に引き寄せ、彼女が「世代を超えた才能の持ち主」であることを告げ、彼女がこのスポーツに注目をもたらしていることに感謝した。

マルキーHCはまだ61歳だ。しかし、彼女は女子バスケットボールの歴史と同じくらい、このスポーツに携わってきた。それは、アメリカの高等教育機関が、女子が男子と同じように大学対抗競技をプレーすることを認めるのがいかに遅かったかということを示している。

ルイジアナ工科大学でプレーしていた彼女は、NCAAが初めて女子バスケットボール・トーナメントを設立した1982年を含め、2度のチャンピオンに輝いた。コーチとしても4度の全米タイトルを獲得し、ネイスミス記念バスケットボールの殿堂入りを果たしている。

「昨シーズンは、私たちのスポーツにとって大きな瞬間でした。エンジェルとケイトリンの2人は、記録的なトーナメントになったことへの関心を高めるのに貢献した、最もよく知られた顔だと思います」と彼女はTSNに語った。

ホワイト氏がNCAAトーナメントで優勝したとき、パデュー大の観客動員数は1試合あたり9681人で全米3位だった。昨シーズン、この数字を上回ったのは4チームだけと歩みは遅かった。

アイオワ大はすでに、今シーズンの単一ゲームのチケットを販売しないと発表している。すべてのゲームがすべて(シーズンチケットで)完売しているからだ。LSUの観客動員数は20%近く増加し、1試合の観客数を5桁に押し上げた。

「何よりまず、競争力があり、才能があり、万能な女性アスリートがいることに感謝しています。そして、女子バスケットボールがその魅力に値するだけ注目を集めていることに感謝しています。選手たちは本当の自分でいることが許されています。このような競争をすることが『淑女らしく』ないと言われたり、このような競争をすることが尊敬されない時代ではなくなったんです」 とホワイト氏はTSNに語った。

「いつの時代も、女性アスリートはどうあるべきかという期待を押し付けられてきました。エンジェル・リースとケイトリン・クラークの2人は、自分たちのやり方、自分たちのアイデンティティ、自分たちの期待を定義しています。それがエリート・アスリートであることの意味だと思います」

※この記事はスポーティングニュース国際版の記事を翻訳し、日本向けに一部編集を加えたものとなります。翻訳:小座野容斉(スポーティングニュース日本版)、編集: 石山修二(スポーティングニュース日本版)

Mike DeCourcy

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Mike DeCourcy has been the college basketball columnist at The Sporting News since 1995. Starting with newspapers in Pittsburgh, Memphis and Cincinnati, he has written about the game for 35 years and covered 32 Final Fours. He is a member of the United States Basketball Writers Hall of Fame and is a studio analyst at the Big Ten Network and NCAA Tournament Bracket analyst for Fox Sports. He also writes frequently for TSN about soccer and the NFL. Mike was born in Pittsburgh, raised there during the City of Champions decade and graduated from Point Park University.

石山修二 Shuji Ishiyama

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スポーティングニュース日本版アシスタントエディター

小座野容斉 Yosei Kozano

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東京都出身 早稲田大学政治経済学部卒。1989年毎日新聞に入社、写真部のカメラマンとして、春・夏の高校野球、プロ野球、ラグビーなどを撮影。デジタルメディア局に異動後は、ニュースサイト編集の傍ら、「K-1」などの格闘技、フィギュアスケート、モータースポーツも撮影してきた。アメリカンフットボールは、個人のライフワークとして、トップリーグの「Xリーグ」を中心に年間約70試合を撮影・取材。2020年2月毎日新聞を退社後は、ウェブ「アメリカンフットボール・マガジン」で約700本の記事を配信した。また、「NFLドラフト候補名鑑」出版にも携わった。日本スポーツプレス協会(AJPS)会員。