BIG3の女性ヘッドコーチ、ナンシー・リーバーマン氏インタビュー
NBAでは現在、ヘッドコーチ(HC)の席に“募集中”の張り紙が貼ってあるチームがいくつかある。またミネソタ・ティンバーウルブズ、フェニックス・サンズ、ニューオーリンズ・ペリカンズは、現職HCが続投か解雇かの瀬戸際に立たされている。
後任として有力視されている候補者たちの名前は、どれも聞いたことのあるものばかりだ。ティロン・ルー(元キャブズHC)、マーク・ジャクソン(元ウォリアーズHC)、エイブリー・ジョンソン(元ネッツHC)、トム・シボドー(元ブルズHC)らの復職か、はたまたアシスタントコーチのネイト・チベッツ(トレイルブレイザーズ)、デビッド・バンタープール(同)、ジュアン・ハワード(ヒート)、チャド・フォーシアー(グリズリーズ)らの昇進か。
それとも。NBAは今こそ、とてもシンプルで、なおかつ革命的な行動に出る時かもしれない。これら男性の名前が連なる長いリストを読み飛ばし、女性にチャンスを与えるのだ。
WNBA(女子NBA)でプレーした後、NBA傘下のDリーグ(現Gリーグ)のHC、NBAサクラメント・キングスのアシスタントコーチを経て、現在3×3のプロリーグ“BIG 3”のチームを率いるナンシー・リーバーマン氏も、機は熟したと話す。
「もしもボスが……米スポーツ界イチのコミッショナー、アダム・シルバーが、早く女性がコーチに就任するのを見たいと言えば、その通りになるでしょうね」
リーバーマン氏はコミッショナーに、NBAにもNFLの“ルーニー・ルール”を導入すべきだと提言した。ルーニー・ルールとは、各チームがHCなどの重職を選ぶ際、候補者に黒人を含むマイノリティーを必ず含まねばならないという規則だ。2018年、ミルウォーキー・バックスが新HC選任に際してサンアントニオ・スパーズのアシスタントコーチ、ベッキー・ハモン氏と面談。女性がトップ・コーチ職の面談を受けたNBAで唯一の実例となった。
リーグ関係者によると、NBAは今のところそのようなルールを導入する予定はないという。NFLとは違い、NBAは人選の際に面談を重視するという慣習がなく、また他プロリーグに先駆け、女性審判員や役員採用を積極的に行ってきたからだという。
「女性に面談の経験をさせるべき」
その一方でリーバーマン氏は、女性候補者に面談のプロセスを踏ませるということで、必要な洞察力を養うことにつながると語る。氏はこれまで何度かNBAでの面談を経験してきた。2009年、DリーグチームのHCに就任する際にダラス・マーベリックスのドニー・ネルソンGMと行った面談、そして15年、キングスのアシスタントコーチに就任する前に行われた面談だ。
「もしマイノリティーや白人男性に面談する機会を与えるなら、少なくとも私たち女性にもそのチャンスが与えられるべきです。アシスタントコーチや役員、ヘッドコーチの部屋にいることがどんな感じなのか、経験させることが必要。知らなければずっと知らないままだから。もし面談する機会がなかったら、ただ想像するしかないのです」
「今ここに座っている私は、面談されるということがどんなことなのか、キングスのためにサクラメントに行くことがどんなことなのか、BIG3共同創設者で俳優・ラッパーのアイス・キューブとの面談がどんな感じだったのかを知っています。Dリーグに入る時には、ネルソンGMと何度も面談しました。それが、成功するための準備になったのです」
たとえ女性候補者のためにルールが改正されなくとも、リーバーマン氏は変化がすぐに訪れると期待している。
「(スパーズと面談した)ベッキーはそのチャンスをものにするでしょう。彼女はグレッグ・ポポビッチHCに師事していますし、ご存知の通り、NBAには他にも女性が活躍しています。キングスのブラデ・ディバッツGMやヴィヴェック・ラナディブオーナーは私にたくさんの機会を与えてくれました。もし母が体を壊さなければ、私はまだあそこにいたでしょうね」
課題は女性が女性としてではなく、能力で判断されるようになること
課題となるのは、各チームに性別ではなく能力のみで判断させることだ。女性がロッカールームを統制し、逆境を乗り越え、若くエゴの強いプロ選手たちをうまくハンドリングすることができるかどうかについては、まだ懸念があるだろう。
だがリーバーマン氏は、それは男性が、“仕事の外での女性”について考えるからだと主張する。氏は1980年、パット・ライリー氏がHCに就任したばかりの頃に、ロサンゼルス・レイカーズのトライアウトに参加した時のことを振り返った。ライリーHCはリーバーマン本人以上に、彼女が女性であるということに引っかかりを感じていたという。
「私にとってはいつものことです。私は女性です。私はこれまでの人生ずっと、“男性のスポーツ界にいる女性”でした。ライリーHCにとって、私をポイントガードとして使うことは難しかったのでしょう。私は彼の下で戦うことを望んでいました。でも彼は違った。私たちがすべき仕事は、“白人女性が若いアフリカ系アメリカ人が大半を占めるチームでコーチをしている”という感覚がなくなる世界を当たり前にすることです」
リーバーマン氏は現在、引退選手のために設立された協会に携わることで、NBAとの関わりを持ち続けている。氏は共同設立者のオーティス・バードソング氏とリック・バリー氏について、以下のように語っている。
「彼らは、よりインクルージョン(注:関わる人すべてが機会を与えられ、それぞれの能力が活かされるという考え方)であるべきだと考えています。またダイバーシティ(注:マイノリティーを含む、多様な人材を積極的に登用するという考え方)も取り入れようとしています。皆に機会が与えられ、もし認められたら、そこにずっといられる。そしてもし仕事ができなければ、切ってもらって構わない。私は今、そういう世界に生きているのです。彼らが女性である私を単なるお飾りとしてではなく、価値を生み出せる人材として登用してくれていることに敬意を表します」
彼女を最もワクワクさせるのは
リーバーマン氏は現役時代、1975年のパンアメリカン競技大会で金メダルを、76年のモントリオール五輪で銀メダルを獲得。そして1996年にはバスケットボールの殿堂入りを果たしている。その氏が昨夏、自身が率いるBIG3のチーム“パワー”を優勝に導いた。そのときの興奮は、「最も信じられない出来事のひとつ」だったという。
だが、さらにリーバーマン氏をワクワクさせる出来事が、もうすぐ訪れるかもしれない。女性がNBAチームの手綱を引く日は、そう遠くないはずだ。彼女がその実現に一役買った、夢が現実となる日が。
「私は自分がバリアを破る先駆者になるなんて、全く考えたこともありませんでした。でも私は、自分自身が世間からどう見られているかは理解しています。つまり、私は何かを成し遂げたのです。1980年に活躍したアスリートが、2019年の今、どれだけ残っていますか? だから私は、まだここに立たせてもらっているだけのことをするのです」
「私はロールモデルかって? そうですね、そう思います。私はベッキーのためにいます。彼女とは長い友人なんです。誰かが(HCの)仕事を終えてくれますように。そしてそのチームが、大きな一歩を踏み出してくれますように」
原文:Nancy Lieberman is ready for women to break through NBA's head-coaching barrier
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「※」は提携サイト『Goal』の記事です