NBAの年齢制限は撤廃されても“ワン・アンド・ダン”はそのまま残る?

Mike DeCourcy

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NBAコミッショナーのアダム・シルバーが、選手のドラフト資格に関する方針の変更を公式に発表する日が来る時(それは間もなく来るのだが)、様々なニュースが全米を飛び交うはずだ。

多くの報道は間違いなく、次のようなフェイクニュースを繰り返すだろう。

「シルバーがワン・アンド・ダンの終えんを発表」

だが、実際にはそうはならない。

「トレイ・ヤングが、ワン・アンド・ダンは終わらないことを、身をもって証明しました」とESPNのカレッジバスケットボール解説者、フラン・フラスチラはスポーティングニュースに語った。

「彼は2年間プレーするつもりでカレッジに進みましたが、あまりにもプレーが優れていたため、結局ドラフト全体5位指名の選手となったのです」

シルバーは、19歳であることと、高校卒業から1年が経過していることをドラフトのエントリー条件とする規則をNBAが間もなく取り除くと述べている。従って、NBAは現在の年齢制限を取り除き、高校卒業が迫っている選手たちがドラフトにエントリーすることを認めることになる。だが、それはワン・アンド・ダンを終わらせることにはならない。選手たちはそれでもカレッジに進み、1年プレーして、シーズンの終わりにドラフトにエントリーするからだ。

それがカレッジバスケットボールの健全性に、どのような影響を与えるか予想することは難しい。

どれくらいの選手がNCAAで1シーズンプレーした後にドラフトエントリーを選ぶのか、私たちには分からない。その理由は、一つには、規則が変更された後に、どれくらいの選手がカレッジに進まなくなるかが分からないからだ。しかし、私たちは近年の歴史を調べることで、それがどれくらい一般的なことになり、そして、カレッジバスケットボールにとって破壊的なことになるか、ヒントを得ることができる。

過去5年間で、69人の選手がカレッジで1シーズンを過ごした後にドラフトにエントリーした。そのうち、38人が高校を卒業した時にトップ10の有望選手にランクされていた。それ以外の8人が11位から15位の間にランクされ、7人が16位から20位の間にランクされ、16人が20位以下にランクされていた。ワン・アンド・ダンの半分近くが、大学入学時には1シーズンで去る可能性が「なさそう」か「全くない」範疇に入っていたのだ。

テキサス工科大のザイール・スミス、アリゾナ大のラウリ・マルカネン、ゴンザガ大のザック・コリンズ、ケンタッキー大のシェイ・ギルジャス・アレクサンダーのような選手は、ワン・アンド・ダンになるとは予想されていなかった。しかし、彼らの中で2年生になった者はいなかった。

「準備ができている選手は、これまでほどの数はいないでしょう」と247スポーツのリクルート解説者、エバン・ダニエルズは言う。

「有望で、さらなる成長の余地があることを示せれば、ドラフトに向かう選手はいるはずです。ワン・アンド・ダンを目指す選手はたくさん出てきます。それを変える唯一の方法は、2年ルールを導入することです」

ライス元国務長官が議長を務める委員会は、FBI捜査の対象にもなったカレッジバスケットボールの問題に対処する際、年齢制限を頑として非難し、NBAに撤廃するように要求した。そして、カレッジに入学した選手を2年か3年ドラフトしないことをリーグが合意する、いわゆる“野球ルール”を支持しないとも述べている。

従って、ワン・アンド・ダンは残ることになる。ただ、それはアンソニー・デイビスやマービン・バグリー、ケビン・ラブよりも劣る選手によって行われるだけだ。

ミシガン州立大のトム・イゾー・ヘッドコーチはスポーティングニュースに対し、カレッジのロスター管理への影響を非常に懸念していると語った。特に増加傾向にある転校する選手や、ドラフトにエントリーした選手がドラフトされなかった場合にカレッジに戻ることが許されるかどうかという点だ。

「そして、誰をリクルートするのか? というもう一つの問題があります」とイゾーは言う。

カレッジ側は、高校で高い評価を得た選手が、NBAに行く途中でカレッジバスケットボールをプレーしようとしているのかどうかを判断しなくてはならない。マイルズ・ブリッジズは豊作だった2016年にリクルートされた世代の中でも10番目の選手だった。ミシガン州立大は、2004年にショーン・リビングストンが入学の意思を示していたデューク大や、2006年にマーテル・ウェブスターが入学の意思を示していたワシントン大で起きたことと同じように、翌年5月にはNBAドラフトにエントリーすることになってしまうというリスクを冒してまで、ブリッジズをリクルートする価値があるかどうかを判断しなければならなかったのだ。

また、ジャレン・ジャクソンのようなケースも出てくるだろう。彼がインディアナ州のラ・リュミエール高校で最終学年へと進級するとき、「スパルタンズ」の名で知られるミシガン州立大学バスケットボールチームは、2017年のドラフトクラスで22位の評価を受けていた当時身長206cmのフォワードであった彼と喜んで契約を結んだ(そして、その1年後には身長を211cmにまで伸ばし、6位評価となった彼をキャンパスへと迎え入れて大喜びした)。

そしてNBAドラフトの年齢制限に達したため、ジャクソンはもう1年大学に籍を置くか決めなくてはいけなくなった。彼がドラフトを選んだ場合、ミシガン州立大学はスパルタンズに選ばれていたであろう他の選手を獲得する機会を失うことになった。

「一部のコーチはワン・アンド・ダンの時代よりも入念に選手の評価をしなくてはいけなくなるだろう」とフラスキラはそう話した。

ワン・アンド・ダンについての取り組みは、NCAAプレジデントであるマーク・エマートが2010年の就任当初から掲げてきた政策の中でも最も重要なものだった。なので、これがライス議長の委員会から批判の的となっていたことも驚きではなかった。

「ワン・アンド・ダンはカレッジバスケットボールが衰退し、不安定化するうえで大きな役割を担った」と委員会の報告書には書かれていたが、この主張を支える疑いようのない証拠はなかった。しかし、NBAを動かすのにはこの発表で十分だった

今週、シルバーは以下のように発言した。

「カレッジ側が言っていることは、突き詰めると『そうした選手たちはもういらない』ということだ。こうした発言は我々に有利に働くと思う」

この見当違いな議題を追求することによって委員会は条件を変えさせることができた。

「彼らが行なっていることの大半は、現状抱えている問題の解決になっていないように思う」とダニエルズは話した。

「もしもワン・アンド・ダンの制度がなくなり、高校からNBAに直接進めるようになったとしても、問題が解決されるかは分からない。彼らは、獲得するために必要以上の待遇を用意する人が出るほどのエリート級の選手たちだ。しかし、これはただ単に昔の制度に戻るだけであり、15位から30位評価の選手たちはそれ以降も必要以上の待遇を受ける選手となるだろう」

したがって、カレッジバスケットボールはこれからも衰退していくだろうし、間違いなくワン・アンド・ダンとの共存は続いていく。ライス議長の委員会の働きは、空回りして好機を逃しただけだった。

原文:No, NBA commish Adam Silver won't kill 'one-and-done' in college game
翻訳:日本映像翻訳アカデミー

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Mike DeCourcy

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Mike DeCourcy has been the college basketball columnist at The Sporting News since 1995. Starting with newspapers in Pittsburgh, Memphis and Cincinnati, he has written about the game for 35 years and covered 32 Final Fours. He is a member of the United States Basketball Writers Hall of Fame and is a studio analyst at the Big Ten Network and NCAA Tournament Bracket analyst for Fox Sports. He also writes frequently for TSN about soccer and the NFL. Mike was born in Pittsburgh, raised there during the City of Champions decade and graduated from Point Park University.