IMGアカデミー進学を発表した日本バスケットボール界期待の星・田中力が世界へと羽ばたく

Hiroshi Kato

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昨年10月、史上最年少の15歳5か月で男子バスケットボール日本代表候補入りを果たした田中力(たなか ちから/16歳)が6月6日、神奈川県横浜市にて開催されたBリーグ 横浜ビー・コルセアーズとIMGアカデミーの合同会見にて、アメリカ・フロリダ州のIMGアカデミーに進学することを発表した。

IMGアカデミーは男子テニスの錦織圭や女子テニスのマリア・シャラポワをはじめ、NBA選手ではジミー・バトラー(ミネソタ・ティンバーウルブズ)、イマン・シャンパート(サクラメント・キングス)など、100名以上のNBA選手を輩出したことでも知られる全米屈指の私立小中高一貫校である。

田中は会見で、「小学6年生の頃、兄と一緒にYouTubeを観ていたときにIMGが出てきて、強くてすごいなと思った。学校も綺麗で、兄と冗談半分で『俺はここに行くわ』と話をしていた」という憧れの学校からのオファーだったことを明かした。

「ずっと行きたかったので(オファーは)嬉しかったですね。(東京ドーム約50個分の広大な敷地を有し、施設が充実していて)学校だと思えない。素晴らしいところだと思います」と、進学の喜びを笑顔で述べた。

会見で「アメリカに行けば自分はポイントガード(以下、PG)でやるのでバスケのIQ(頭脳)、シュート力の安定さなどの細かいところをレベルアップしてきたいと思っています」と語った田中が、PGとしてのプレイや憧れの選手について語った。

ポイントガードとしてアメリカ挑戦をする田中力

――チームによってプレイするポジションが変化してきたと思いますが、いつからPGとしてプレイする意識をしましたか?

田中: 中学校1年生くらいからですかね。中学校に入ってちょっと背が高いほうだったんですけど、ミニバスのときと比べるとそこまで大きいほうではなかったので、ガードとして頑張らなきゃいけないんだなと思いました。U14、U16に入ってからは、さらにガードとしてやらなきゃなと思いました。

――PGだけではなく、SG(シューティーングガード)もプレイできるコンボガードとしてプレイしていきたいですか?

田中: そうですね。(最優先は)PGですけど……他のPGが来てもいいようにSGもできるように準備しておかなくてはいけない。最近はレベルが高いところでプレイするとアシストのほうが気持ちよくなってきています。得点を取ると嬉しいんですけど、今はアシストのほうが好きですね。

――IMGでの背番号として2番を選んだ理由は?

田中: NBAで憧れの選手はカイリー・アービング(ボストン・セルティックス)で、今は11番ですけど、(クリーブランド・キャバリアーズ時代の)2番のイメージが強くて、自分の目標にしている選手の番号を背負いたいなと思って2番にしました。

田中力 IMGアカデミー進学
Photo by Hiroshi Kato/Sporting News Japan

――プレイの参考にしている選手は?

田中: 日本のバスケだと富樫(勇樹/千葉ジェッツ)選手とかですかね。身長の高い選手を相手に、あれだけプレイできるのは、本当にすごいなと思います。1対1をするときに、(相手との)リズムをはずしてレイアップにいったり、シュートを打ったりするのを、よく観て学んでいます。

――NBAのPGで参考にしている選手は?

田中: NBAのPGだと、やはりカイリー・アービングが好きですね。(ゴールデンステイト・ウォリアーズのステフィン)カリーも好きです。なんで好きかというと、今カリーはすごいですが、高校時代は全然(大学からの)オファーが来てなくて、お父さん(元NBA選手でシャーロット・ホーネッツなどで活躍したデル・カリー)はすごいけど、子供はあまりすごくないと言われていました。カリーはNBAに入りたいと言っていたけど、みんなからは無理と言われたりしていたんです。それでもカリーは努力をして大学2年生でNBAドラフトにかかって、そこから今のスーパースターになっています。そのストーリーを聞くと素晴らしい人なんだなと思います。

――アレン・アイバーソンも好きだと聞きましたが、彼の印象を教えていただけますか?

田中: アレン・アイバーソンはとりあえずバケモノというか……今までのガードの中でも1位なのではないかなと思ったりもします。アイバーソンはバスケを変えた人で、いろいろとつらいこともありましたし……。(困難を乗り越えて、183cmの低身長でありながらアイバーソンがNBAで大活躍してくれたからこそ)自分たちの世代があると思うので、ありがたいです。彼のプレイはかっこいいだけでは表現できないですね。特にクロスオーバー(ドリブル)が一番。もうあれば本当にクレイジー(凄い)です。

田中を支える家族の絆

同日、会見会場を訪れていた田中の母・礼子(あやこ)さんと兄のシャンサー・ジュニアさんも、囲み取材に応じてくれた。

――会見で田中選手が「自信」を持つことの大切さについて発言されていましたが、お母さんの教育方針や生活環境で田中選手が自信を持つことができるようになったきっかけがあれば教えていただけますか?

礼子さん: 正直、自信を持てないような環境になってしまいました。小学校4年生まではベース(横須賀米海軍施設)の中の学校に行っていたのですが、離婚をしてしまいまして……。環境がガラッと変わって、狭い家で、買いたいものも買ってあげられない(状況でした)。みんながそういうことがあったの? と思うくらい、お兄ちゃんも彼も、小さいときに苦労をしてきました。(転校先の学校では)日本語がしゃべれなかったので自信を持てなかったでしょうし、カルチャーショックや、「表現の仕方が生意気だ」「なんで先生に口答えしているんだ」と言うように捉えられてしまって、彼もいろいろな葛藤があったと思います。そのときに自信をつける要素というのは、とにかく愛情をたっぷり注いで、家に帰ってきたら美味しいものをお腹いっぱい食べさせて、ということです。別にたいしたものではないですけど……。とにかく愛情だけは、欠かさず注いでいこうというのが私のモットーというか、無償にあげられるものというと、それだけしかないので。

――田中選手が憧れのIMGアカデミーに進学することとなり、シャンサーさんはどのように感じていらっしゃいますか?

シャンサーさん: 本日は力にとって、家族にとって特別な日です。彼はいつもアメリカに行ってトップレベルの学校でプレイしたいと思っていました。いつもトップレベルの学校の動画をYouTubeで観て「いつの日かあそこに行く」と言っていました。そして今日がその日です。

彼にはとても興奮させてもらっています。僕は、力ならNBA入りし、スーパースターになれると思っています。自分たちが小さい頃から彼がそうなれると思ってきました。だから彼には「お前が願うことは何でも成し遂げられる」と伝え、常に「全力を出すこと」、「自分のベストを尽くすこと」、「あきらめるな」、「自分らしく」と言い続けてきました。

世界へと羽ばたく、田中力

IMGアカデミーのバスケットボールディレクターを務めるブライアン・ナッシュ氏は、このように述べている。

「IMGアカデミーには男子11チームと、女子3チームの計14チームのバスケットボールチームがあります。力には男子のトップチームでプレイしてもらう計画をしています。かなりハイレベルな選手がいるチームでのチャレンジのため、最初は彼が望むほどのプレイタイムを得られないこともあるかもしれません。トップチームの選手たちと毎日一緒に練習をし、彼らと一緒にプレイすることは、力にとってはとても有益な経験となるはずです」。

IMGアカデミーには8月に入学し、順調にいけば11月末のシーズン開幕からトップチームでプレイすることとなる。NCAA(全米大学体育協会)の規定により、3年間で高校を卒業することがNCAAディビジョン1とディビジョン2への進学には必須条件となっているため、田中はバスケットボールと学業で結果を残し、3年後に卒業することが目下の目標となる。そしてIMGアカデミー卒業後に、NCAAのディビジョン1の大学へ進学、さらにはNBA入りを目指すという流れだ。

「良いときも、苦しいときも、3人で乗り越えてきた」と母・礼子さんが言う通り、田中が育った環境は決して恵まれていたわけではなかったかもしれない。しかし、田中には愛情あふれる母と優しく頼もしい兄がいつもそばにいた。彼らを見ていると、困難な環境からNBA入りを果たしてきた、多くのNBA選手たちの姿と重なって見える。

数年後には、NBAドラフトで「Chikara Tanaka」とNBAコミッショナーから名前を呼ばれ、会場で歓喜に沸く礼子さんとシャンサーさんの姿が見られるかもしれない。自らの夢を達成するため、そして愛する家族のため、田中力は世界へと羽ばたいていく。

Hiroshi Kato