“村神様”に完全試合…話題満載だった昨季のプロ野球10大ニュース

菅谷齊

“村神様”に完全試合…話題満載だった昨季のプロ野球10大ニュース image

プロ野球の醍醐味を見せた2022年だった。三冠王に完全試合…と投打の最高記録が出たシーズンは球史に長く残るだろう。話題満載の10大ニュースである。

1:歴史を塗り替えた“村神様”の三冠王

打率3割1分8厘、本塁打56、打点134-。ヤクルト村上宗隆は22歳で三冠王に輝いた。史上最年少の快記録で、プロ野球の歴史に新たなページを作り“村神様”と。打率で危うい場面があったが、本塁打と打点は断トツだった。

焦点となったのは王貞治の持つ55本塁打を抜くかどうかだった。9月13日の巨人戦で54、55号を連発し、いとも簡単に王と並んだ。ところがあと1本が出るまで3週間を要し、10月3日のDeNA戦でやっと出た。この3本は本拠地の神宮で放ったところに運の強さを持っていた。

8月には新記録となる5打席連続アーチを放っており、まさに“村上イヤー”だった。シーズン後に「いずれメジャーリーグ」と希望を語っている。2023年は想像を絶する“村上包囲網”に遭うことは間違いない。それを克服してのメジャー挑戦となる。

2:佐々木朗希、早すぎる完全試合

歴史を塗り替えた、といえばロッテの佐々木朗希もそのヒーローの一人。20歳5か月の若さで完全試合(スコア6-0)を成し遂げたのである。開幕して間もない4月10日、前年パ・リーグ優勝のオリックス相手に、新記録の連続13三振を含む19三振(タイ記録)を奪い、105球でやってのけた。1994年の槙原寛己(巨人)以来28年ぶりの快挙で、2022年序盤の話題を一手に集めた。

すごいのは続く先発の17日の日本ハム戦で8イニング無走者、つまり17イニング、51打者を完全に封じたのである。まるでフィクションの世界のような快投だった。2試合連続パーフェクトゲームにあと1イニングだったが、両軍無得点ということもあって8回限りで降板し、メジャーリーグにもない大記録はならなかった。試合は10回表に日本ハムが1点を取り、1安打で勝っている。

160キロを超える速球から「いずれノーヒットゲームはすると思っていたが、こんなに早く達成するとは…」と評論家は一様に驚いた。“約束の快挙”だったのである。

3:日本一に導いた連続三冠王の山本

オリックスのエース山本由伸も歴史に輝く成績を残した。勝利15、防御率1.68、奪三振205。前年に続く“投手三冠王”である。なかでも防御率は素晴らしい。打者を相手にしなかったといえる内容だった。さらにノーヒットノーランもやってのけた。

チームはマジックナンバーなし、最終戦の逆転優勝で連覇。日本シリーズではヤクルトに勝ち、2021年の雪辱を果たすとともに、1996年以来の日本一に。山本抜きでは達成しえなかった栄光だった。

4:吉田と千賀、破格契約でメジャーへ

今オフ、信じられない高額契約で、オリックスの吉田正尚とソフトバンクの千賀滉大がメジャーリーグ行きを決めた。

・吉田→レッドソックス 5年9000万ドル(約124億円)
・千賀→メッツ 5年7500万ドル(約102億円)

投手はこれまで野茂英雄、松坂大輔、岩隈久志、田中将大や現在のダルビッシュ有ら、打者ではイチロー、松井秀喜ら、さらに大谷翔平の二刀流の活躍、実績が大きく影響して日本人選手の価値が高まった結果だろう。

吉田は規定打席数に達した2018年から5年連続3割をマークし、うち2度の首位打者を獲得している。もっとも安定したヒットマンである。千賀は2016年から7年連続2ケタ勝利をマークした安定感を持つ。育成からエースにのし上がった出世物語は“ジャパンドリーム”として本場でも話題になるのは間違いない。両選手とも文句のないメジャー行きといえよう。

5:次々とノーヒットノーラン

完投が少ない、規定投球回数に達しない…などの批判のなかで、なんと佐々木朗の完全試合を含むノーヒットノーランが5度も達成された。これは草創期の1940年以来82年ぶりのことだった。

・4月10日 佐々木朗希(ロッテ)オリックス戦(千葉)
・5月11日 東浜巨(ソフトバンク)西武戦(福岡)
・6月7日  今永昇太(DeNA)日本ハム戦(札幌)
・6月18日 山本由伸(オリックス)西武戦(西武)
・8月27日 ポンセ(日本ハム)ソフトバンク戦(札幌)

佐々木朗を除く4試合のスコアがいずれも2-0なのは奇遇だった。

6:“1勝1億円”の田中将大

9勝12敗、防御率3.31。これが出戻り2年目の“神の子マーくん”の成績だった。年俸9億円だったから「1勝1億円」という超高額単価となった。防御率を基準にした10傑の8位。この10投手のなかで。自責点60、被安打160、被本塁打16はいずれも最多だった。シーズン24連勝(通算28連勝)でヤンキース入りし、開幕投手を務めたあの田中はどこへ行ったのか、とファンは残念がった1年だった。

7:「喝」と「活」の新庄ブーム

監督で話題になったといえば日本ハムのルーキー監督だった新庄剛志である。監督就任が驚きだったし、ひんしゅくを買った「優勝は狙いません」発言に球界がビックリ。選手を自在に使い、予想通りの最下位だったが、メディアの出番は圧倒的で監督業に活気を注入した。「喝」と「活」の“2つのカツ”を演じた新庄ブームだった。

8:大荒れ、4監督が交代

ファン感謝デーの最後に「今季限りで辞めます」。ロッテの井口資仁監督が退団を発表したとき、スタンドに詰めかけたファンは驚きを隠せなかった。開幕前、優勝候補に挙げた評論家は多かっただけに、5位に終わったことで責任を感じたのだろう。

井口とは対照的にシーズンが始まる前に「今年で辞める」と異例の宣言をしたのが阪神監督の矢野耀大。キャンプのときの発言だが、Aクラスにもかかわらず言葉通り退任となった。

このほか、広島の佐々岡真司(5位)、西武の辻発彦(3位)は契約切れで退団となった。3分の1の監督が消えたのだから大荒れといっていい。

9:巨人、Bクラスの憂鬱

68勝72敗3分け、勝率4割6分8厘の4位。巨人は2017年以来のBクラス(4位、5割1分4厘)になった。勝率が5割を切ったのは06年(4位、4割5分1厘)以来16年ぶりの屈辱だった。今季は良い出来事が少なく、朗報は37セーブを挙げた大勢が新人王に選ばれたぐらい。むしろ原辰徳監督の来季続投の可否をめぐる騒ぎが目立った。憂鬱が盟主を覆っている。

10:予想外の首位打者と最多安打

パ・リーグの首位打者を獲得したのは日本ハムの松本剛。137安打の打率3割4分7厘で2位のオリックス吉田に1分2厘の差をつけたのだから見事である。初の開幕戦先発で出場しソフトバンクの千賀から2安打を放ってのスタートだった。東京・帝京高から12年にドラフト2位でプロ入り。

片やセ・リーグの最多安打が岡林勇希。20年のドラフト5で三重・菰野(こもの)高から中日入り。前年まで30試合17安打だったのが161安打(DeNA佐野恵太とタイ)をマークしたうえ三塁打10本はセ、パ通じて最多。21世紀生まれ最初の打撃タイトルを獲得した。

二人とも外野手でチーム最下位というなかでのタイトルで新ヒーローとなった。

番外:村田、池永の死去

11月11日、ニュースが全国に飛んだ。“マサカリ投法”の村田兆治が自宅で亡くなった、と。72歳。ロッテ時代にトミー・ジョン手術を受けて復活し、日曜日に先発するところから“サンデー兆治”といわれ、通算215勝を挙げた。引退後は「離島甲子園」を立ち上げ少年野球の指導に没頭した。野球一筋の頑固者で“昭和生まれの明治男”と評された。

もう一人、9月25日に“天才少年”と呼ばれた池永正明が76歳で亡くなっている。甲子園の優勝投手として西鉄入りし、いきなり20勝を挙げて新人王。その後、黒い霧事件にかかわったとして永久追放されたが、2005年に復権した。現役は1965年から6シーズンで20勝3度を含む通算103勝、うちほぼ4分の1にあたる完封24。「事件がなければ300勝」といわれた逸材だった。

▶プロ野球を観るならDAZNで。スマホやTVでスポーツをいつでも楽しもう

菅谷齊

菅谷齊 Photo

菅谷齊(すがや・ひとし)1943年、東京・港区生まれ、法大卒。共同通信で巨人、阪神、大リーグなどを担当。1984年ロサンゼルス五輪特派員。スポーツデータ部長、編集委員。野球殿堂選考代表幹事を務め三井ゴールデングラブ賞設立に尽力。大沢啓二理事長時代の社団・法人野球振興会(プロ野球OBクラブ)事務局長。ビジネススクールのマスコミ講師などを歴任。法政二高が甲子園夏春連覇した時の野球部員。同期に元巨人の柴田勲、後輩に日本人初の大リーガー村上雅則ら。現在は共同通信社友、日本記者クラブ会員、東京プロ野球記者OBクラブ会長。著書「日本プロ野球の歴史」(大修館、B5版、410ページ)が2023年度ミズノスポーツライター優秀賞を受賞。