2022年殿堂入り候補:A-Rodとオルティーズの候補者デビューはボンズやクレメンスの得票に影響するか?

Ryan Fagan

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2022年殿堂入り候補者リストについて分かっていることから議論を始めよう。何はともあれ、この年はバリー・ボンズ、ロジャー・クレメンス、そしてサミー・ソーサにとって最後の殿堂入りチャンスになる。ポイントは禁止薬物との関わりだ。

2022年投票はこの3人の10年目であり、殿堂入りする資格がある最終年である。75%以上の得票を得てクーパーズタウンに迎え入れられるか、それとも数年後にベテランズ委員会へ運命を委ねるかの分かれ道になる。ボンズとクレメンスに関しては、選ばれる可能性は少ないながらもあるだろう。ソーサについては全米野球記者協会(BBWAA)から選ばれるチャンスは現実的にはゼロに等しい。ソーサの過去9年間の得票率は25%にさえ達したことがないからだ。
(カート・シリングにとっても最後の年になるが、シリングのケースは今回の議論の内容とはまったく別の問題である)

過去5年間において、3人の元選手が最終年である10年目の投票で殿堂入りを果たした。ティム・レインズ(2017年)、エドガー・マルティネス(2019年)、そしてラリー・ウォーカー(2020年)だ。このように最終年に得票が急増するということは現実にあるが、それがボンズやクレメンスに起こるとは予想しない方が良いだろう。この2人は過去数年間でおよそ60%の得票を辛うじて得ている。

ボンズとクレメンスの得票資格は多くの意味で独特である。彼らのキャリア成績は歴史的なものであるが、2人とも長い間に渡って野球界の悪役を演じてきた。若い頃は生意気で礼儀知らずのスターとして知られ、キャリア終盤から引退するまでは禁止薬物の噂がつきまとい、ネガティブな印象を強く残したからだ。

だが、2022年の投票から新たに候補者に加わる、似て非なる2人の元選手の存在がボンズとクレメンスの最終年における印象に強い影響を与えるかもしれない。その2人とはアレックス・ロドリゲスとデビッド・オルティーズである。

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ボンズやクレメンスとは異なり、A-Rod(ロドリゲス)とビッグ・パピ(オルティーズ)は野球界から愛されている。ロドリゲスはレギュラーシーズンにはESPNで、ポストシーズンではFoxで、それぞれの局でテレビ・タレントとして活動している。さらにはもうあと少しでニューヨーク・メッツを買収するところだった。

オルティーズもあらゆるところで、Foxの10月ポストシーズンのプロモーション活動に現れている。オルティーズは長い間に渡って野球ファンから愛されるか、あるいは尊敬されてきたし、その人気は引退後さらに高まっている。A-Rodは引退後の5年間で世間からの印象を再構築し、現在のところまで修復した。現在では10月のポストシーズンにこの2人の笑顔と会話を見ることなしに野球を見ることは難しい。

オルティーズとA-Rodが投票者にどのように扱われるか、そして彼らが候補者に加わることがボンズとクレメンスの最終年得票にどう影響するか、非常に興味深い見物だ。加えてこの2人だけではない。ソーサ、マニー・ラミレス、そしてゲイリー・シェフィールドについても同じことが言える。彼らを軽視することはできない。彼らもまた殿堂入りに相応しい経歴を持ちながら、禁止薬物との関与により選出されていないからだ。

話を進める前に、2つのポイントを挙げておく。
1:私は投票資格があった5年間すべてでボンズとクレメンスに票を投じた。ラミレスとシェフィールドにも投票した。A-Rodとオルティーズにも投票するつもりである。
2:7人の選手たちのそれぞれの禁止薬物との関わりは以下の通りである。

バリー・ボンズ: ボンズは禁止薬物検査で陽性と診断されたことや出場停止処分を受けたことは一度もない。ボンズは法廷で2種類のステロイド製品を使用したことを認めた。違法にリークされた栄養補助食品会社バルコ(BALCO)の裁判で証言台に立った時のことだ。だがボンズはそれらの製品を摂取したときにそれらがステロイドであることを認識していなかったと主張した。

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ロジャー・クレメンス: ボンズと同様に、クレメンスも禁止薬物検査に失格したことは一度もない。しかしながら、これもボンズ同様、クレメンスの禁止薬物との関わりは強い。チームメイトのアンディ・ペティットはクレメンスがHGH(ヒト成長ホルモン)を使用したと証言したし、トレーナーのブライアン・マクナミー氏はクレメンスが1998年シーズンでステロイドを使用したと証言した。クレメンスはそのどれについても強く否定し続けている。

マニー・ラミレス: ラミレスは37歳だった2009年シーズンに禁止薬物検査で陽性と診断され、50試合の出場停止処分を受けた。そして2011年シーズンにも再び陽性と診断され、100試合の出場停止処分を受ける代わりに39歳で引退することを選択した。

ゲイリー・シェフィールド: シェフィールドは禁止薬物検査で失格したことは一度もないが、ミッチェル・レポートに名前が挙がり、ボンズのトレーナーから受け取ったクリームを使用したことを認めている。そのクリームとはステロイドであったが、シェフィールドはそれをコルチゾン系のクリームだと言われたと主張した。

サミー・ソーサ: ソーサは公式に薬物検査で陽性と診断されたことは一度もない。だが2009年にニューヨーク・タイムズ紙が公表したレポートの中で、2003年に陽性診断を受けたとされる100人近くの選手リストに含まれている。

アレックス・ロドリゲス: 2009年、ロドリゲスはテキサス・レンジャーズに在籍していた2001年から2003年までの間に禁止薬物を使用していたことを認めた。さらにバイオジェネシス・スキャンダル(2010年から2012年の間に再びステロイドを使用した)での役割を巡り、MLBから2014年シーズン全体の出場停止処分を受けた。

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デビッド・オルティーズ: オルティーズは公式に薬物検査で失格したことは一度もない。だが2009年にニューヨーク・タイムズ紙が公表したレポートの中で2003年に陽性診断を受けたとされる100人近くの選手リストに含まれている。この調査はMLBが薬物検査を導入するかどうかを決めるために実態を把握するために行われた。この際の調査対象になった薬物のいくつかは、2003年当時にはMLBの禁止薬物リストに含まれていなかったことは注記されるべきである。

微妙なニュアンスの相違や外部の理由(これについては後述する)を別にして、禁止薬物に関与したと見られる選手に投票するかどうかを判断するには4つの基本的な考え方がある。

1. 「禁止薬物に関与した誰にも投票しない」

これはもっとも厳しい姿勢だ。禁止薬物検査で陽性になった、出場停止処分を受けた、あるいは禁止薬物の摂取を疑われた選手は、自動的に「ノー」を突き付けられる。少なくとも、一貫して公平な姿勢であるとは言えるだろう。もちろん、過去数十年間において禁止薬物や他の運動能力向上薬品と何らかの関与がありながら既に殿堂入りしている元選手たちについてとなると話は別だ。だが、少なくとも個人の投票姿勢としては一貫性がある。

2. 「選手の経歴のみに基づいて投票する」

この考えた方はシンプルだ。ある選手が候補者リストに入っているということは、MLBと殿堂委員会と良い関係を保っていることを意味し、野球場でのパフォーマンスのみが考慮の対象になるべきだということだ。周知の通り、ピート・ローズは候補者に入っていない。ローズはMLBと良好な関係を持っていないからだ。野球賭博に関与したことは資格を失ったと判断されている。

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だが、ボンズ、クレメンス、ソーサ、ラミレス、シェフィールド、ロドリゲス、そしてオーティズは資格を失ったとは考えられていない。彼らは全員が2022年の候補者リストに入るし、殿堂入りに相応しいかどうかは彼らのキャリアを通した野球場でのパフォーマンスのみが考慮されるべきである。この考え方によると、MLBと殿堂委員会が既に判断を下した以上、倫理上の判断は全米野球記者協会の職務ではない。

3. 「禁止薬物関与が原因で出場停止処分を受けた誰にも投票しない」

この考え方の背後にあるのは「既に立証された事実のみに基づいて投票する」という姿勢だ。禁止薬物検査がMLBに導入された2005年に明確な線引きが行われる。おそらくは、ほぼ間違いなく、クーパーズタウンで既に殿堂入りを果たした元選手たちの中には、現役時代に禁止薬物を使用したが、実際に検査で失格しなかった何人かが存在する。そうなると、彼らが疑わしいにもかかわらず殿堂入りするのであれば、なぜ疑わしいとされる他の選手たちに投票しないと言えるのだ?

この考え方に同意する投票者はボンズ、クレメンス、ソーサ、そしてシェフィールドの名前の横にあるボックスにチェックを入れることになる。なぜなら彼らは一度も禁止薬物検査で失格したことがないからだ。しかし、2回失格したラミレスは選ばれない。この考えは、オーティズに投票し、A-Rodには投票しない理由にもなる。

4. 「禁止薬物を使用する前から殿堂入りに相応しい成績を挙げていた選手のみに投票する」

元選手たちがいつから禁止薬物の使用を始めたのかを正確に知ることができれば理にはかなっている。しかしそれを証明することは難しいはずだ。何人かの投票者はボンズとクレメンスに投票し、ソーサには投票しないことを、この考え方で正当化する。こうした投票者たちはA-Rodのボックスにチェックを入れるだろう(ロドリゲスはテキサス・レンジャーズで禁止薬物を使用する前、シアトル・マリナーズに在籍していた頃から素晴らしい成績を残していた)。だが、オーティズは難しいかもしれない。オーティズが証言した使用時期について、投票者たちがどう考えるかにかかっている。

殿堂入り投票に票を投じたことがあるほとんど全員が口を揃えることだが、実際に投票を決めるのは上の考え方からどれかひとつだけ選ぶような単純なものではない。そこには組み合わせがある。そこにはニュアンスがある。そこには外部的理由もある。それは困難な作業なのだ。かつては投票権を持っていたが、その権利を放棄したものもいる(ESPNのバスター・オルニー氏もその1人だ)。そして投票を続けるかどうかも迷っているものも何人かいる(今年のThe Athleticのケン・ローゼンタールを含む)。

過去何十年もの間、元選手は候補者リストに15年留まることができたことは注目するに値する。最後の5年間が重要であることは、何人かの殿堂入り選手が証明しているからだ。バート・ブライレブン(14年目に選出)、ジム・ライス(15年目に選出)、そしてブルース・スーター(13年目に選出)がそうである。2015年の投票から、元選手たちが候補者リストに留まれる期間が10年に短縮された。このことは禁止薬物と関与した候補者についての議論が高まったことと無縁ではない。

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A-Rodとオーティズがボンズ、クレメンス、ソーサ、そしてシェフィールドの候補者リストの仲間入りをすることで、物事は複雑になり始めた。A-Rodに目を向けてみよう。A-Rodの禁止薬物違反は野球界がかつて経験したことがないものだからだ。ある種の人々にとって、A-Rodは問題なく「ノー」だ。禁止薬物を使用し、それを認めて、そして1シーズン全体に及ぶ試合出場停止処分を受けているのだから。そこに疑問の余地はない。

だが、こうとも言える。アレックス・ロドリゲスは野球での違反による処罰を受けた。2014年シーズン全体に出場できなかったのだ。そして野球界に戻ってくることを許された後、39歳でニューヨーク・ヤンキースに復帰したシーズンで、主に指名打者(DH)として、33本の本塁打を打ち、151試合で3.0 bWARを積み上げた。2016年には65試合に出場し、キャリアの最後となる9本の本塁打を打った。引退後は野球界と親密な関係を築き、そしてほぼ完全に受け入れられている。

A-Rodが受けた出場停止処分は野球界からの永久追放ではない。「その1年から後も全米野球記者協会のメンバーらが引退後も追及したいと思うような」違反ではなかったのだ。それは非常に特別な処分だった。しかも原告からの訴えによって、211試合から1シーズンへと期間を短縮された処分でもあるのだ。

少なくとも法理論的には、A-Rodが犯した違反については既に処罰が完了したものとして、彼に殿堂入りに票を投じるものがでても不思議ではない。その理論はマニー・ラミレスにも適用することができるだろう。ラミレスは1回目の出場停止処分を受け、2回目は39歳で引退を選択している。

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処罰が完了したという議論を続けるならば、ボンズとクレメンスについてもその理論を適用するのが自然だ。この2人はどちらも公式には(現役時代に)禁止薬物検査で失格していないし、そのために出場停止処分を受けたこともない。だが、彼らは間違いなく罰せられた。この9年間に渡って、クーパーズタウンの殿堂ギャラリーの威厳を守ることを義務と感じる投票者たちによって罰せられてきたのだ。多分、いやきっとそうだ。だが、もしA-Rodが1シーズンの公式処分を受けたことで得票が許されるのなら、ボンズ、クレメンス、そしてソーサも9年間の非公式な処罰の後で得票が許されるべきではないのか? シェフィールドは7年後? ラミレスは5年後? 一体どこで線を引けばいいのだ?

そして、多くの人はこう叫ぶだろうことも承知している。「ピート・ローズはどうなのだ? 彼はもう十分に罰せられたのではないのか?!?!?」 

この問いに対しての私の答えはこの通りだ。それとこれとは話が違う。野球というスポーツから見て、ローズが関与した野球賭博という違反は禁止薬物を使用することよりはるかに悪質なのだ。それはこのスポーツの根幹にかかわるルールであり、しかもそのルールは1920年代から存在していた。野球というスポーツに関わるのであれば、野球で賭博をしてはいけない。それがすべてだ。そしてその処罰も長年に渡って確立している。野球賭博で捕まったものは野球界から永久追放される。そこに灰色の部分はない。

ならば不正に利益を得ようとすることはどう考えると良いのだろう? 野球界には見て見ぬ振りをする伝統があり、選手たちを処罰することを避けられなくなった時にしか処罰を実行しない。2005年までは公式に禁止薬物検査を行ってさえいなかったのだ。処罰内容は何回も変更されているうえ、複数回の陽性診断が出ない限りは追放処分は下されない。ローズが行った犯罪とボンズやクレメンスの犯罪とを比べようとすること自体が無理なのだ。

繰り返しになるが、私個人は来年の冬はどのような投票結果になるのか非常に興味がある。投票用紙は11月に投票者へ郵送され、例年通り、投票は2021年11月31日に締め切られる。さあ、議論を開始しようではないか。

(翻訳:角谷剛)

Ryan Fagan

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Ryan Fagan, the national MLB writer for The Sporting News, has been a Baseball Hall of Fame voter since 2016. He also dabbles in college hoops and other sports. And, yeah, he has way too many junk wax baseball cards.