スポーツチームの改名の歴史と理由:バファローズの由来は「カツカレー」を生んだあの選手

小座野容斉 Yosei Kozano

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スポーツチームの愛称にはそれぞれ独自の意味が込められている。ただし、命名当初は問題のなかったものも、時代とともに状況が変わり、変更を余儀なくされる例も少なくない。ここでは、世界のスポーツチームの改名の事例を挙げながら、その理由をまとめる。

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政治的な改名

レッドスキンズ→コマンダーズ

北米のスポーツチームの名称変更の中で、大きな議論を呼んできたのは、「アメリカスポーツ界の先住民マスコット問題」に絡む改名だ。変更を推し進めようとする人たちと、反対する人たちの間で常に論争が起き、「ポリティカルコレクトネス=政治的妥当性」とも絡んでいる。

アメリカンフットボールのNFLでは、屈指の名門チームだったワシントンが、旧名レッドスキンズから経過期間を経てコマンダーズに代わった。アメリカの先住民を「赤い皮膚」と直接的に表現した名前とロゴが、民族の侮蔑に当たると批判され、先住民マスコット問題の中でも象徴的な存在となってきた。

2020年に、本拠地スタジアムの命名権を持つフェデックス、さらにスポーツ用品のナイキ、飲料のペプシコという、NFLと関連が深い世界的大企業に対して、巨額の資金規模を持つ87の投資家グループが、名称を変更しない場合、球団との関係を断つように求めた書簡を送った。

これを受けて、球団は、同年7月13日にレッドスキンズの名前とロゴを使用停止とすることを発表。7月24日には、暫定的な新チーム名を「ワシントン フットボールチーム」とすることを発表した。このチーム名で2シーズンを戦ってきた。2022年からは新チーム名コマンダーズで戦っている。

エスキモーズ→エルクス

カナダのプロフットボールリーグCFLでは、エドモントン・フットボールチームが、2021年6月、チームの名称を「エドモントン・エルクス」(Edmonton ELKS)に変更した。エドモントンは前年7月21日、NFLの「レッドスキンズ」の名称やロゴの使用を中止したことを受けて、「エスキモーズ」を廃止していた。

カナダ政府は1991年、「エスキモー」と呼称していた先住民について、言葉としては「生肉を食べる人」という蔑称であり差別的であるとして廃止し、イヌイットを公式名とした。以来、カナダではエスキモーが差別語とされてきた。他方で、「エスキモー」はチーム名だけで、先住民をイメージするマスコットやロゴは使用していないこと、アラスカでは、エスキモーは公式の語として存在しており、自らをエスキモーと呼称する部族があることなどから、エスキモーズは球団創設以来この名称を変えなかった。

エスキモーズはアルバータ州エドモントンに本拠地を置く。現在のチームは、1949年創設だが、前身のクラブチームとして1895年に発足した当初から「エスキモーズ」として存在してきた。

インディアンズ→ガーディアンズ

野球のMLBではクリーブランド・インディアンズが、2021年7月23日に、インディアンズの名称を2022年からガーディアンズに変更することを正式に発表した。NFL「レッドスキンズ」とほぼ同時期の2020年7月に、チーム名見直しを決定し、2020~2021年は改名プロセスの途中だったため、インディアンズのままで戦ったが、球場ではフェースペイントや頭の羽根飾りは使用が禁止されていた。

クリーブランドは1915年から2021年にかけて、このチーム名を使用していた。2018年には、チーム名の変更に先駆けてChief Wahoo(ワフー酋長)のロゴの使用を停止していた。

映画『メジャーリーグ』の舞台にもなった有名チームだが、2016年のワールドシリーズ出場で、そのチーム名が改めてクローズアップされることとなり、改名への動きが強まっていた。

上記3チームに対して改名を求める活動は、それぞれ過去数十年にわたって続いていたが、2020年を機に一斉に変わったのは、同年に起きたジョージ・フロイドさん殺害事件に対する全米的な抗議活動「ブラック・ライブズ・マター」に影響された面も大きかった。

アメリカの大学や高校のスポーツチーム名の状況は?

また、アメリカでは、大学や高校、中学でも、スポーツチームには愛称がついているが、先住民をイメージしたニックネームは、2013年のデータでは3000校以上あったという。

その中では、学業・スポーツの双方で名門校のスタンフォード大学や、東部のシラキューズ大学は1970年代に名称を変更。他方で、サンディエゴ州立大学(メキシコのアステカ族を意味するアズテックス)は、使用続行。フロリダ州立大学(種族名を冠したセミノールズ)は、セミノール族から認証されているとして、変更の予定はないという。

アメリカでは、スポーツチームのニックネームは、学校ごとに全競技を通じて同じ。改名のインパクトはプロスポーツチーム以上に大きい。

日本でも法政大学のアメリカンフットボール部が、2017年に「トマホークス」から「オレンジ」に名称を変えたのは、同じ理由とされている。

ユニークな改名

MLBのピッツバーグ・パイレーツは、いまから130年以上前の1891年に、パイレーツ(海賊)を名乗るようになった。街の中心を川が流れているとはいえ、ピッツバーグ市はペンシルバニア州の内陸都市で、海からは遥かに離れている。なぜこの名称を選んだか。

当時アメリカに存在した別のプロ野球リーグが解散した際に、ピッツバーグは、そのリーグに所属していた複数のチームから主力選手を強引に引き抜いた。そのために、引き抜かれたチームからは「盗賊」「泥棒」と非難された。しかし、当時のオーナーは、開き直って、それを売名に使い、自らパイレーツと名乗るようになった。そのチーム名は現在に至るまで変わっていない。

日本のスポーツチームの改名の例:近鉄バファローズ

日本では、かつて存在した、プロ野球団の近鉄バファローズがユニークな改名の例として知られている。近鉄は1949年の球団創設時には、パールズ(Pearls)というチーム名だった。これは、近鉄沿線でもあった、三重県・伊勢志摩の特産品である真珠にちなんだもの。しかし、戦うチームにふさわしい名前であったかは疑問で、東京六大学野球出身者を中心にした、プロ経験者の少ないチームは、苦戦続きで、創設から4年連続で最下位になるなど低迷した。

1958年にはシーズンでわずか29勝(97敗4引き分け)、勝率.238という惨状だった。そのため、当時の佐伯勇オーナーが、プロ野球界で人気・実力を兼ね備えていた巨人から、川上哲治さんと並ぶスター選手で、前年に引退していた千葉茂さんを監督に招聘した。現役時代の千葉さんのニックネームは「猛牛」。その英語が、公募でも圧倒的な支持を集めてチーム名「バファロー」となり、後にバファローズとなった。

名称変更に合わせて、世界的な芸術家の岡本太郎さんが、チームロゴをデザイン。岡本さんは草野球を通じて、千葉さんと親交があったという。

千葉さんは、監督としては実績を残せず、3年連続最下位でチームを去ったが、自身のイメージからついたバファローズの名は、近鉄にしっかり定着した。

その後1970年代の後半からは、名将・西本幸雄さんの指揮下、猛牛のイメージ通りの強力打線が作り上げられた。「いてまえ打線」は、パ・リーグの名物となり、仰木彬さんが監督となった1980年代末からは、当時の常勝チーム・西武ライオンズに挑んで名勝負を繰り広げた。その後、2004年に球団はオリックスに吸収合併されたが、チーム名は存続した。

 千葉さんは、行きつけだった東京・銀座の洋食店で、ポークカツレツとカレーライスを一緒に出してくれとオーダーし、それがカツカレーの元祖となったというのは有名な話だ。

千葉さんは2002年に亡くなったが、バファローズは、今年の日本シリーズに3年連続出場を果たした。カツカレーと共に、バファローズは日本の社会にしっかり根付いている。

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小座野容斉 Yosei Kozano

小座野容斉 Yosei Kozano Photo

東京都出身 早稲田大学政治経済学部卒。1989年毎日新聞に入社、写真部のカメラマンとして、春・夏の高校野球、プロ野球、ラグビーなどを撮影。デジタルメディア局に異動後は、ニュースサイト編集の傍ら、「K-1」などの格闘技、フィギュアスケート、モータースポーツも撮影してきた。アメリカンフットボールは、個人のライフワークとして、トップリーグの「Xリーグ」を中心に年間約70試合を撮影・取材。2020年2月毎日新聞を退社後は、ウェブ「アメリカンフットボール・マガジン」で約700本の記事を配信した。また、「NFLドラフト候補名鑑」出版にも携わった。日本スポーツプレス協会(AJPS)会員。