アメフト新リーグAAF、シーズン途中でまさかの活動休止へ その理由は?

Sporting News Japan Staff

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開幕シーズンにしては人気も上々だったAAFに、まさかの活動休止報道

今年2月に開幕したばかりのアメリカンフットボールの新プロリーグAAF(アライアンス・オブ・アメリカンフットボール)が、レギュラーシーズンを2週残して早くも活動を休止するという。複数の米メディアが報じた。

“NFLのオフシーズン中に開幕”“キックオフなし”など、特徴的なスタンスで順調にファンを獲得しつつあったAAF。NFLチームがないエリアに拠点を置いた全8チームには、元NFL選手やカレッジで活躍した選手などが所属している。

2月9日の開幕戦は視聴者数が290万人にものぼり、同日に行われたNBAのヒューストン・ロケッツ対オクラホマ・サンダー戦の視聴者数を上回っていた。『アクション・ネットワーク』のダレン・ロベールによると、第8週まで終了した現在の視聴者数は開幕当初よりは落ち込んだものの、初シーズンとしては上々の数字だったという。

ではなぜ活動休止に追い込まれたのか。その理由は、どうやらリーグのトップに問題がありそうだ。

 

“救世主”となるはずが……“独裁者”トム・ダンドンの悲劇

開幕戦から2週間後、AAF共同設立者のチャーリー・エバーソル氏とビル・ポーリアン氏は、早くも資金難に陥っていた。一刻も早く投資先を見つけなければ人件費などの支払いに間に合わないという苦しい状況の中、救いの手を差し伸べたのが、米プロアイスホッケーリーグNHLのカロライナ・ハリケーンズのオーナー、トム(トーマス)・ダンドン氏だった。

ダントン氏は合計2億5000万ドル(約276億円)の資金投資を約束。同時にAAFのチェアマンに就任することとなり、この瞬間から、AAFの未来はすべて氏の一存で左右されることとなった。ダンドン氏の資金は週払いで投じられ、現在までに7000万ドルが支払われているという。

3月下旬、ダンドン氏は『USAトゥデイ』に対し、AAFはNFLPA(NFL選手会)との協働を目論んでいることを明かした。以下はその時の氏の言葉だ。

「選手会がNFLの若い選手を送り込んでくれなければ、我々は発展できない。そうなれば、リーグの存続を諦めるという可能性も視野に入れている」

選手会との協働については、共同設立者のエバーソル & ポーリアン氏も共通して持っている認識だった。『ザ・アクション・ネットワーク』によると、AAFは当初より、NFLのマイナーリーグとしての立ち位置を模索しており、AAFで育成した選手をNFL入りさせ、またNFLからリタイヤした選手をAAF入りさせるというファームの仕組みを3年計画で実現させるという目標を掲げていた。ところがダンドン氏はその“3年”を長すぎると判断。選手会との交渉を急いだ。

選手会との交渉はどうやらうまくいかなかったようだ。『USAトゥデイ』によると、選手会はNFLのアクティブプレイヤーをAAFに“貸す”ことに難色を示したという。会関係者は、現役NFL選手やプラクティススクワッドの選手らを送り込むことがリーグの労使協定に抵触すると主張。オフシーズン中に十分な休息を取ることは選手の安全や回復には必要不可欠であり、その間に行うチーム練習やトレーニングにも差し支えるとした。

そして選手会は、もしAAFとの連携を許せば、多くのチームがロースター決定の判断材料にするためAAFに若い選手を送り込むようになり、それがNFLでのシーズンを脅かす故障にもつながりかねないことを懸念しているという。

NFLリポーターのダニエル・キャプランがツイッターで明かしたところによると、ダンドン氏が活動休止を決めたのは、この選手会との交渉がまとまらなかったことが理由のようだ。

4月2日、AAFは全従業員に活動休止のアナウンスをメールで通知したという。

 

共同設立者ビル・ポーリアンが声明を発表、悲痛の胸の内明かす

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画像:ビル・ポーリアン(Getty Images)

このダンドン氏の決定は完全に独断のようだ。エバーソル&ポーリアン氏は選手会との交渉を急ぐことも、また軌道に乗り始めたばかりのリーグを停止させることも想定していなかった。

2日、ポーリアン氏は声明を発表。その内容は以下の通りだ。

「私はトム・ダンドンがAAFの活動を停止させるという決断を下したことに、非常に失望しています。ダンドン氏に引き継いだ時、私と共同設立者のチャーリー・エバーソルは、きちんとシーズンを終え、債権者への支払いを完了し、前へ進むための調整を行い、経済的にも安定させることができると信じていました」

「このプロジェクトを信じて、希望を持っていただいた多くの方々に報われない思いをさせてしまったことを、心から悔やみます。彼らは最善を尽くしてくださいました。そのことに深く感謝いたします」

 

所属選手たちも続々とSNSを更新 前日に契約の選手も

最大の被害者は選手たちだ。『アクション・ネットワーク』によると、彼らは最大25万ドル(約2787万円)で保証なしの契約を結んでいた。最初の1年で7万ドル(約780万円)を稼げる予定だったが、契約は即座に終了し、退職金も出ないという。彼らに支払われるのは、プレーできた第8週までの分のみだ。さらに、路頭に迷う選手たちを地元に帰すための飛行機代も、すべて選手の自腹だという

報道を受け、AAFのチームに所属していた選手たちは次々とSNSを更新。中には、前日に契約へのサインをしたばかりだという選手もいた。

タイワン・ジョーンズ(元NFLニューヨーク・ジェッツLB)

「文字通り、これから手にいれるはずだったすべてを失ったよ。昨日の夜9時にAAFにサインしたばかりだったんだ。大好きなアメフトに戻れることを楽しみにしていた。そして24 時間も経たないうちに、リーグが取りやめになった。“選手のことが原因”だってさ、最悪だよ」

ジョニー・マンジール(メンフィス・エクスプレスQB、元NFLクリーブランド・ブラウンズ)

「もしあなたがAAF選手でリーグが解散することになったら。最後の収入は、まさに最後にもらった分になるわけだ。裁判やらなにやらが、僕らに金を恵んでくれはしないだろ。無駄遣いしないで、上を向いていよう。何かすごいことが起きない限り、今はそれしかできることがない」

チャールズ・ジョンソン(オーランド・アポロズWR、元NFLカロライナ・パンサーズ)

「呆れるよ。僕らを最高でいさせてくれよ。時として、大事なのは金や権力じゃないんだ。フットボールへの愛と、他者への愛こそが大切なんだ。プレーさせてくれ!」

アンソニー・マンゾ・ルイス(メンフィス・エクスプレスFB)

「“組織にまとまりがない”っていうのは控えめな表現。僕らは部屋(家賃も払われていないだろうね)を追い出され、自宅から17時間も離れたところですべての所持品を詰めた車と一緒に路頭に迷っている」

中には、ただ感謝の言葉を綴った選手もいる。

ウェスリー・サウンダーズ(バーミンガム・アイアンTE、元NFLインディアナポリス・コルツ)

「AAFは僕がフィールドと共にあるってことを見せるチャンスをくれた! 3年以上働きながら待って、ようやく僕の娘はパパが選手としてプレーしているところを見ることができたんだ。もちろん、究極のゴールはNFLに戻って、そこでやり遂げること!」

スティーブン・ジョンソン(アリゾナ・ホットショッツLB、元NFLボルティモア・レイブンズ)

「AAFとホットショッツには一生感謝するよ。今は複雑な気分だ! チームメイトたちは皆僕の兄弟になった! そして僕らは間違いなく、リーグ1位になったんだ! でもそろそろNFLに戻る時が来たみたいだ」

今回AAFが(ダンドン氏が)下した決断は、あくまで活動休止だ。AAFそのものがなくなったわけではないが、しかし再開の目処は立っておらず、またリーグがこの汚名を返上するのも並大抵のことではないだろう。

一方でNFLのファームシステムを構築したいという当初からの目標は賛同者も多いはずだ。1年か2年か、はたまたもっと先か、フットボールへの愛を持て余している多くの選手たちのためにも、再開の日が待たれる。

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※記事はIOC公式サイト『Olympic Channel』提供

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日本を拠点に国内外の様々なスポーツの最新ニュースや役に立つ情報を発信しているスポーティングニュース日本版のスタッフアカウント。本家であるスポーティングニュース米国版の姉妹版のひとつとして2017年8月に創刊された日本版の編集部員が取材・執筆しています。