セブンズワールドカップでの日本代表の展望
元来、セブンズラクビーの世界一を決める大会だったセブンズW杯は、男子が1993年から始まり、今大会が7回目だ。女子は2009年からスタートして3回目だが、リオデジャネイロ・オリンピック(五輪)からセブンズラグビーが正式種目となった関係で、オリンピックと2年おきに開催という決まり事により、今大会は2013年以来の大会だ。今後は従来通り、4年ごとに開催される。
リオデジャネイロ五輪で4位に入賞した男子セブンズラグビー日本代表は、7大会連続で出場しているが、最高成績は13位だ。一方、女子セブンズラグビー日本代表、通称「サクラセブンス」は過去2大会のW杯で1勝も挙げたことがない。
今大会は男子が24チーム、女子が16チーム出場する。しかしながら、前回までの予選グループでの戦いの後に決勝トーナメントというスタイルではなく、一発勝負のトーナメント方式で競われる。
男子日本代表は1回戦でウルグアイ代表と対戦し、勝利すると2回戦でシードされているリオデジャネイロ五輪金メダルのフィジー代表と激突する。女子日本代表は1回戦で2017-18シーズンのワールドシリーズ3位の強豪フランス代表と戦う。男女ともに日本代表の掲げる目標は「ベスト8」以上だ。
男子セブンズラグビー日本代表の注目選手
キャプテン・小澤大(おざわ・だい)
小澤大はもともと15人制ラグビーでは、身長183cmと体格の優れたWTB(ウィングスリークォーターバック)だった。もちろんスピードもある。そこに目を付けられ、流通経済大時代にセブンズラグビー日本代表に初めて招集され、2013-14シーズンからワールドシリーズでプレーした。
しかし、リオデジャネイロ五輪のメンバーには惜しくもスタメン外だった小澤は、その悔しさをバネに「今度こそオリンピックに出たい!」と、トップリーグの選手でありながら、トヨタ自動車ヴェルブリッツに所属しながらも、セブンズラグビーを優先してきた。セブンズラクビーでは、FWとしてセットプレーもこなしながら、ランナーとしてもボールを前に出す。そして、キャプテンとして誰よりもタックルを繰り返し、ディフェンスでも中心選手のひとりだ。
この4月からトヨタ自動車の社員でありながら、日本ラグビー協会とも契約し、2020年までセブンズラグビーに年間200日ほど集中できる2人目の専任契約選手となった。「15人制ラグビーと両立するよりも、セブンズラグビー1本にした方が、もしオリンピックメンバーから落選したとしても悔いは残らないし、全力を出せる」と言い、小澤はセブンズラグビーで勝負する決意を固めている。
初めて迎える大きな国際大会、セブンズW杯に向けて小澤は「ジャパンとしてのプライドを持ち、体を張ったプレーを続け、全力を尽くし、精一杯頑張ります。初戦のウルグアイ代表に勝てば、フィジー代表というすごく強い相手ですが、付け入る隙はあると思うので、精一杯戦ってベスト8進出目指し頑張っていきたい」と意気込んでいる。
坂井克行(さかい・かつゆき)
2人目の注目選手は元キャプテンであり、副島亀里ララボウ ラティアナラ(コカ・コーラ)と並んでリオデジャネイロ五輪も経験している29歳のベテランの坂井克行(豊田自動織機)だ。早稲田大学4年からセブンズラグビー中心にキャリアを積んできて9年目を迎えた。既に、主要大会では過去に40大会出場し、ゴールキックも任されている。
経験豊富な坂井は、その戦術眼でBK(バックス)の主軸選手のひとりとして、日本代表のゲームをコントロールしている。時にはステップを切って前に出てトライを狙う。坂井はセブンズラグビーの魅力を、「7対7なのでスペースがたくさんあり、ボールを持って走って抜いてトライを取るという面白さがあります。また、試合時間が7分ハーフと短いこともあり、どのチームにもチャンスがある」と話している。
オリンピックだけでなく前回のセブンズW杯も経験している坂井は、冷静沈着に「我々の力が、今の世界を相手にどこまで通用するのか、楽しみ」と腕を撫している。
松井千士(まつい・ちひと)
23歳の「若きスピードスター」の松井千士は、身長182cmでスラッとしたモデルのような外見から、女性誌などで紹介されたこともあるイケメン選手だ。
松井は高校時代から「花園」こと、全国高校ラグビー大会で決勝トライを挙げるなどスター街道を歩んできた。同志社大学に3年時には当時の15人制日本代表のエディ・ジョーンズHC(ヘッドコーチ)に招集され、日本代表キャップも獲得した。セブンズの日本代表として、2015年11月に五輪アジア予選で9トライを挙げ、トライ王を獲得するなど存在感を示した。
しかし、リオデジャネイロ五輪で直前にフィジカルの弱さを露呈し、12人のメンバーから落選。バックアップメンバーとして日本代表チームに帯同した。「生きてきた中で、一番悔しい経験でした。ただ、メンタル的には強くなったと思いますし、この悔しい気持ちを自分の心中に持って、2020年の東京五輪では一気に(気持ちを)爆発させたい」(松井千士)
同支社大学卒業後、松井は昨年度トップリーグで優勝したサントリーに入団し、仕事をしながらも毎日ウェイトトレーニングを行ない、3回の食事以外にも2回の捕食を日課とし、70kg台だった体重を85kgまで増やすことに成功した。
昨年、開幕直後からサントリーで活躍するものの、左足の指を骨折し、リハビリを余儀なくされた。しかし、この6月に復帰するとすぐにセブンズラクビーの日本代表に再招集された。東京五輪を目指す決意を固めた松井は、「あと2年、オリンピックを目指していくステージに立つことができてワクワクしています」と口にしている。
松井はセブンズW杯で、オリンピックに出られなかった悔しさを糧に、持ち前のスピードで世界に挑む。
男子日本代表で活躍する海外国籍の選手たち
今回のセブンズW杯日本代表メンバーには、フィジー出身のジョネ・ナイカブラ(東芝)、ジョセ・セル(北海道バーバリアンズ)、ジョセファ・リリダム(NTTドコモ)の3人、そしてニュージーランド出身のジョー・カマナ(マツダ)が選出されている。
15人制ラグビーのW杯でも同様だが、ラグビーはオリンピックやアジア大会のようなどのように「国籍主義」ではなく、各選手が所属する「協会(ユニオン)主義」である。そのため、ある国や地域の協会に所属し、3年間居住してプレーを続ければ、その国や地域の代表選手になることが可能となる(ただし2020年12月31日より居住年数が3年から5年に延長)。他にも、祖父母や両親のいずれかひとりがその国や地域出身者、その国や地域で生まれた場合でも同様だ。
上記の4選手は、既に日本で3年以上プレーしているため、日本代表としてプレーすることが可能というわけだ。
女子セブンズラグビー日本代表の注目選手
キャプテン・中村知春(なかむら・ちはる)
「アニキ」という愛称で、チームメイトから親しみを込めて呼ばれているのが、キャプテンの中村知春(アルカス熊谷)だ。リオデジャネイロ五輪にも出場し、すっかり「サクラセブンズ(通称、セブンズラクビー女子日本代表)」の顔となった中村だが、もともとは大学時代までバスケットボールに打ち込んでいた。
ところが、「何か新しいスポーツを」と探していると、たまたま家の近くでラグビーを観て、ラグビー転向を決意した。持ち前の運動量、そしてハードワークを惜しまなかったことから、2011年からラグビーを始め、翌2012年から代表として活動を続けている。「(ラグビーとバスケットボールは)相手を抜いていくスポーツという共通点もあり、ハンドリングの感覚やスペースを作る動きの感覚などはバスケとボールの経験が生かせている」(中村知春)
2013年のセブンズW杯は、中村にとって初めての大舞台であり、自分たちが世界のどの位置にいるか分からないで戦っていたという。が、現在は世界の中の立場も明確になり、初戦で戦うフランス代表という相手も何度も対戦している。中村は、「何をどんなことをやってくるかわかっている」と話している。
今では、すっかりラグビー選手が板に付いてきた中村は、「セブンズW杯では今シーズン、トップ8という目標を達成する最後のチャンスです。トップ8を目標に、新しい方式で一発勝負ですが、先手を取って勝っていきたい。ここまでハードワークしてくれた仲間に対して感謝し、4年に一度の舞台の重みを噛みしめて全力で戦っていきたい」と意気込んでいる。
平野優芽(ひらの・ゆめ)、田中笑伊(たなか・えみ)
2人目、3人目の注目選手は今年、日本体育大に入学したばかりの18歳の平野優芽と田中笑伊だ。2人は昨年17歳で日本代表デビューを飾り、めきめきと成長している選手だ。
ステップやランが武器の平野は祖父と父の影響により、小学1年生からラグビーを始めた。そして、高校1年時には日本最高峰の大会である「太陽生命ウィメンズセブンズ2015東京大会」でMVPを獲得し、一躍、注目を浴びる存在となった。当時の平野は、現在よりも7~8kg軽い53kgだった。クラブチームやユース世代の強化合宿で研鑽を積み、フィジカルトレーニングに精を出した結果、平野はスピードを落とさずに身体を大きくすることに成功した。持ち前のステップを武器に、ワールドシリーズでもトライを挙げ、今ではディフェンスの意識も高まり体を張ることができるようになった。
一方、田中は富山県魚津市の出身で、小学2年生のときからラグビーを始めた。中学時代はバスケットボール部にも所属しつつ、ラグビーも同時にプレーしていたアスリートだ。
高校ではラグビーに専念するとともに「男子と一緒に練習できる」という環境の國學院栃木に進学。全国大会常連校の男子部員と練習できることで、「スピードや筋力アップにつながりました」と振り返る。視野が広くチャンスメイクもでき、ランでもスペースを突く能力が高い田中は高校生ながら日本代表に定着していった。
18歳コンビはセブンズW杯という大舞台に物怖じすることはない。
「4年に一度という大舞台であるセブンズW杯に出場できることを、とても嬉しく思います。チームの勝利に貢献できるよう自分がチームの攻守の起点となり、一戦一戦全力を出すことで、大会を思い切り楽しみます」(平野)
「1年前までは想像もしていなかったセブンズW杯舞台です。ここで試合ができることに感謝し、自分の持てる力をチームのためにすべて出し切ります」(田中)
大竹風美子(おおたけ・ふみこ)
最後は陸上の7種競技から転向し、ラグビー歴1年半でセブンズW杯に出場する大竹風見子(日本体育大2年)だ。父親がナイジェリア人、母親は日本人の大竹。中学生と高校時代に陸上競技に専念していた。実は、大竹が通っていた東京高校は、陸上だけでなくラグビーの強豪校だった。大竹は高校3年の春、バスケットボールの授業でルールが分からず、ドリブルをせずにボールを持って走ってしまった。それを見たラグビー部の顧問の体育教諭が、大竹に「ラグビーをやってみないか?」と勧めたことがラグビーとの初めての出会いだった。
そして、高校3年時のインターハイにおいて7種競技で6位入賞を果たし、「やり切った感があった」という大竹はラグビー転向を決意。それから、トントン拍子でセブンズラクビーの日本代表の強化合宿に招集され、途中でケガをしたこともあったが、今年の1月のワールドシリーズで日本代表デビューを飾り、持ち前のフィジカルの強さとスピードを世界に見せつけることに成功した。
「もう初心者とは言えないのですが(苦笑)、初めての感覚を大事にして、思いっきりやることで結果につながればいい」という大竹は、初の大舞台でその潜在能力を開花させることができるか。
男女セブンズ日本代表は、ともに東京オリンピックでのメダル獲得を大きな目標に掲げている。その前に、オリンピックの試金石ともなる今回のセブンズW杯で、新しい桜のジャージを着た日本代表選手たちの活躍に期待したい。