"ミスタータイガース"、掛布雅之氏が語る「仕事」論 【前編】

Satoshi Katsuta

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身長175センチと野球選手としては小さな身体ながら、現役時代に3度の本塁打王を獲得した掛布雅之氏。球団史上初の日本一となった1985年には「ミスタータイガース」として、ランディ・バース氏や岡田彰布氏らとクリーンナップを組んでいたことでも知られている。現役当時は「阪神の4番」として仕事を全うしてきた掛布氏は、どのように「仕事」に取り組んでいたのだろうか。前後編と2回に分けて紹介する。

掛布論 1) 4番に求められるのは「本塁打」と「我慢」

─阪神タイガースは今シーズン序盤、4番に新外国人のウィリン・ロサリオを据えて戦ってきました。調子が今ひとつ上がってきませんが、掛布さんから見ていかがでしょうか。

福留(孝介)、糸井(嘉男)が結果を残しているだけにロサリオに一本出れば、チームとしても変わって来るんですよね。象徴的なのが巨人戦(5月8日からの3連戦)でした。初戦でロサリオがあれだけ特大の本塁打を放ち、いい形(9-0)で勝てたのにも関わらず、2戦目(1-3)・3戦目(2-4)と連敗しています。両試合とも「4番に1本出れば」という場面が見受けられましたね。

──掛布さんにとって4番の仕事とは?

4番としてまずは本塁打でしょう。巨人戦で見せたような本塁打を多く打つことができれば、相手投手が勝手に逃げてくれるんですよ。やはり相手ベンチ、バッテリーに怖さを与えるためにもヒットではなく、本塁打が必要ですね。そしてロサリオには、打席で我慢することも必要ですね。消極的な形ではなく、打ちにいっての四球を選ぶことができれば、チームとしての得点力が上がってきます。4番として前後の打者を生かすためにも本塁打を打つこと、そして我慢することが大事でしょう。

掛布論 2) 「野球が好き」という大前提

──現在、阪神のオーナー付きシニア・エグゼクティブ・アドバイザーで活躍している掛布さんですが、現役時代と引退後で立場が変わって仕事観は変わってきましたか。

中学生くらいから野球を本気で始めて、ずっと僕の隣には"野球”があったんですよ。今、63歳ですから人生の4分の3以上は野球と一緒なんです。立場は変わっても、野球に取り組む気持ちや姿勢は変わらないんです。まず、大前提は「野球が好き」ということですよね。

──好きだからこそ続けられるということですね。

そうですね。もうひとつ言うと、選手、育成(打撃コーディネーター)、二軍監督、オーナー付きと様々な立場で仕事として携わってきましたけど、「楽しむ」気持ちをどこかに持っておかないと野球と向き合えないですよね。野球が好きだからこそ、楽しむことができているんです。

掛布論 3) 常に意識していたのは「笑顔」

──現役時代からずっと、野球を楽しんでいる?

現役時代も二軍監督もイライラしたり、悔しいときだってありましたよ。だけど僕は笑顔のときが、野球において一番いい状況判断ができると思ってるんです。

もちろん現役時代は、真剣勝負なんで笑顔で野球をすることはできないんです。でも「心のどこかで、子どものころに持っていた大好きな野球を楽しむんだ」という笑顔の部分を作って状況判断をしてました。いつも、心の中で笑顔を作ることを意識していましたね。

だって打席には相手を倒すんだ! いう気持ちで入りますけど、イライラしてたら打席の中で配球も読めません。気持ちに余裕を持つためにも、笑顔がひとつのキーワードになると思いますね。

──「笑顔」でいる、それは野球以外の仕事にも通じるかと思います。

そうだと思いますね。社会人の方たちも同じでしょうね。偉いとか偉くないとか関係なく、その立場でやらなければいけないことがあるのであれば、つまらない顔ではなく笑顔で取り組むほうがいい結果を生むと思うんですよ。「どうせやるんであれば、笑顔でやろうよ」と常に思ってますよ。笑顔があれば相手に嫌な印象を与えることもないんですから。

──二軍監督時代にも若い選手達にそういった指導を行っていたんでしょうか?

「真剣勝負の中で笑顔で楽しむことは難しいかもしれない。でも、大好きな野球をやってるという気持ちは忘れたらダメだよ。笑顔でいい判断をして、いい結果を残しなさい」といったことを言ってましたね。どんな辛いときでも、心のどこかで笑顔を持っておかないと前に進めないですよ。

(後編に続く)

 

【掛布雅之氏プロフィール】

1973年ドラフト6位で習志野高から阪神へと入団。15年間に及ぶ現役時代には本塁打王3度、打点王1度のタイトルを獲得し「ミスタータイガース」と親しまれていた。通算349本塁打のス強打者。現役引退後は解説者などの活動を経て、2013年シーズン終了後に打撃コーディネーターとして阪神へ復帰。2016年からは2シーズンに渡り二軍監督を務め、現在はオーナー付きシニア・エグゼクティブ・アドバイザーとしてチームに携わっている。

Satoshi Katsuta

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かつた・さとし/東京都出身。複数の業界で営業、経営管理を行ったのち2015年に独立。同年よりNPB、MLBなの記事作成、2022年からメディアのSNS運用など野球関連の業務を行っている。