"ミスタータイガース”掛布雅之氏が語る「仕事」論【後編】

Satoshi Katsuta

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「ミスタータイガース」こと掛布雅之氏は、前編で4番に求められるのは「本塁打」と「我慢」と持論を説いた。また、「野球が好き」という至ってシンプルな思いを持ち続け、笑顔を絶やさなかったとも口にした。後編では結果を残すためにどのようなことを心がけてきたのかを聞いた。

掛布論 4) 目標数字は簡単にクリアできない数字を設定する

──野球に限らず、仕事をする上で「目標」は大事になってくると思います。現役時代はどのように目標を設定されていましたか。

僕は最初(1979年)に本塁打王を獲得してから「3割・40本・100打点」を最低限の数字として目標を設定してきました。でも、それを達成できたのは優勝した1985年の1度だけなんですよ。全て三冠のタイトルに絡むわけですから、簡単な数字ではなかったんです。

──確かに、簡単な数字ではないですね。

自分で分かると思うんですよね。ある程度は。その中でも簡単にクリアできる数字を設定して欲しくないんです。「挑戦するんだ! 」という数字を自分で設定して欲しいですね。それだけ高い数字を目標とすることで、準備の継続に繋がってくるんです。

掛布論 5) ライバルがいることで自分に厳しくなる

──目標の数字設定以外に大事なことは何かありますか。

ライバルを作ることですね。最終的には自分との勝負なんですけど、チーム内でライバルとなる選手を見つけることも大事だと思います。ライバルに負けたらレギュラーになれないわけですから。それが、自分自身のモチベーションにもなってくるわけです。やっぱり、ライバルのいるいないでモチベーションは大きく変わってきますね。

──自然と競争意識が生まれてきますね。

そうなんです。1985年もポジションは違いますけど、いい意味で(ランディ・)バース、岡田(彰布)と意識しあったことが良かったんですよね。3人が刺激しあって、いい数字を残すことができました。それがチーム全体に広がり、優勝という結果に繋がったと思います。

掛布論 6) 息抜きは車の中だった

──仕事をする上で息抜きも大切だと思うんですが、現役時代なにかされてましたか。

僕はすごく車が好きなんです。現役時代も家にいるとき10分、15分ですけど車の中でひとりで考えを整理してましたね。

──運転せずに?

運転せずに乗っていたこともあります。僕にとって車の中はひとりになれて、落ち着ける空間だったんです。(自分の)部屋にいるのと同じような感じですね。

実は合宿所にいるときも、近くにある知り合いの車庫に車を置いてあったんですよ。そこまで歩いて行ってシートで「今日の投手はこうだから、こうしようかな」とか考えてましたね。運転はしないんですけどね(笑)。

──他の選手もそうだったんですか。

他の選手はどうでしょうね。でも、家から球場に来るまでの車の中は大事にしていたと思いますよ。だいたい30分くらいですが、ひとりになれる唯一の時間でもあるんです。そこで野球のことを考えたり、気持ちを切り替えたりしてたと思いますよ。

──チームメート(仲間)はどんな存在でしたか。

仲間と食事をして、最終的に野球談義をするのが楽しかったですね。ライバルも大事なんですけど、いい仲間も凄く大切です。やっぱり、助けてくれますから。

ただ、選手によく言ってたのは「ひとりに強くならないと一軍では活躍できないよ」ということでしたね。打席に入ったり、守備についたらひとりで戦わなければいけないんです。その上で「仲間に迷惑をかけない自分でありなさい。そのために明日の準備をするんだよ」ということを伝えていました。ひとりでキチッとできない人には仲間ができませんからね。

掛布論 7) 選手と同じ目線に立つこと

──準備の話が出ましたが、二軍監督時代にもストレッチなどの準備を継続してやっていました。

二軍監督時代、毎日家を出る前にストレッチなどの準備を継続してましたよ。選手達に継続の大切さを伝えるためにもやらないといけないと思ってやってました。今でも5時から5時半くらいに起きて続けてますよ。バット振ったりストレッチをやったりね。そういったことを感じていないと選手に伝えることができないなと思ってるんです。

あとね、臆病だから、弱いから続けているんだと思います。弱さを無くす準備がすごく必要だったんです。ぼくは弱いんですよ。

──二軍監督になられてからも継続されているのは意外でした。

若い選手と一緒に野球をやるようになって意識させられましたね。毎日、野球をやらなきゃいけないなかで、僕自身がなにかを続けられる自分でないとね。選手に向き合うためにも申し訳ないなと思ってました。

──コミュニケーションもうまく取られているように見受けられました。

僕の息子よりも年下の選手と野球をするので、選手の目の高さに僕の目の高さをキチッと合わせることを意識してました。選手にボールを投げかけ、そして選手が投げるボールを僕が受け取る。その距離感を大事にしてましたね。

(前編に戻る)

 

掛布氏は終始、持前の笑顔でインタビューに応じてくれた。1955年(昭和30年)生まれということもあり、いわゆる昭和な考え方をイメーしがちだが、そんなことはない。若い選手と目線を合わせてコミュニケーションを取る部分などは、現代的な考え方に近いだろう。今シーズンからは、オーナー付きのシニア・エグゼクティブ・アドバイザーとしてチームを支えていく掛布氏。少年時代から変わらずに「野球が好き」という気持ちを持ち続けている掛布氏の活動に、今後も注目したい。

【掛布雅之氏プロフィール】

1973年ドラフト6位で習志野高から阪神へと入団。15年間に及ぶ現役時代は本塁打王3度、打点王1度のタイトルを獲得し、「ミスタータイガース」と親しまれていた。通算349本塁打。2015年から2シーズンに渡り二軍監督を務め、現在はオーナー付きシニア・エグゼクティブ・アドバイザーとしてチームに携わっている。

Satoshi Katsuta

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かつた・さとし/東京都出身。複数の業界で営業、経営管理を行ったのち2015年に独立。同年よりNPB、MLBなの記事作成、2022年からメディアのSNS運用など野球関連の業務を行っている。