スキージャンプとノルディック複合、日本の3選手が新しい歴史を作る:北京五輪プレビュー

宮本あさか

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競技概要:ノルディックスキー、雪上競技の王者

五輪において、スキーと言えば、そもそもはノルディックスキーのことである。アルプス山脈で盛んに行われていたアルペンスキーが、第4回大会でようやく受け入れてもらえたのに対して、北欧発祥のノルディックスキーは、1924年第1回シャモニー冬季五輪から2022年第24回北京冬季五輪まで、変わらず正式種目の座を守り続けている。

大原則はかかと部分が固定されていない「テレマークスキー」を使用すること。極細のテレマークスキーを履いて、雪原を駆け抜けるのが『クロスカントリースキー』で、極太のテレマークスキーに乗って、巨大なジャンプ台から飛び降りるのが『スキージャンプ』。この2つの完全に異なるスキーを『ノルディック複合』では、1人で両方攻略せねばならない。

クロスカントリーとライフル射撃を組み合わせた『バイアスロン』もまた、伝統的にはノルディックスキーの仲間だ。やはり、第1回五輪に「ミリタリー・パトロール」の名称で行われた同種目は、国際スキー連盟の管轄ではないため、現在スポーツとしては上記3種目とは異なる道を歩んでいる。

2022年北京五輪でクロスカントリーは、男女ともに個人戦4種目と団体戦2種目で争われる。ジャンプは男子個人戦がノーマルヒルとラージヒルの2種目、女子個人がノーマルヒルの1種目。また、男子選手4人で戦う団体戦(ラージヒル)に加えて、今大会は五輪史上初めての男女混合団体(ノーマルヒル)もお目見えする。

そして空陸両用のノルディック複合は、ノーマルヒルと10km、ラージヒルと10kmをこなす個人戦が2種目と、4選手が一致団結して競う団体戦(ラージヒル/4×5km)で、「キング・オブ・スキー」を選び出す。

日本人メダル候補:小林陵侑、高梨沙羅、渡部暁斗の3人が新しい歴史を作るか

長野五輪ジャンプ団体金メダルを獲った原田雅彦(右から2番め)たち

日本が最強を誇った時代があった。1972年札幌五輪では「日の丸飛行隊」がスキージャンプ70m級の表彰台を独占し、1998年長野大会では男子個人ラージヒルと団体を日本が勝ち取った。

好調のまま北京五輪に臨む小林陵侑

栄光の物語の続きは、きっと北京五輪で綴られる。初出場の平昌はノーマルヒル7位で終えた小林陵侑は、今や名実ともに世界のトップを突き進む。2018/19シーズンには、スキージャンプ界で最も威厳の高い4連戦「ジャンプ週間」で史上3人目となる全勝優勝を達成した。全28戦中優勝13回、表彰台8回という華々しい成績で、日本人男子として史上初のワールドカップ総合優勝も飾った。

この冬も自身2度目のジャンプ週間総合優勝を果たし、北京入りの数日前には、今季7勝目も積み上げた。ワールドカップ勝利数は、すでに日本の"レジェンド"葛西紀明の記録(17勝)を超え、いまや男子では現役最多の26回に達する。

W杯勝利数では男女ともに日本勢トップだが、五輪でも金がとりたい高梨沙羅

25歳の小林がひたすら金へと突き進むように、やはり25歳の高梨沙羅も、金メダルしか眼中にない。ジャンプ女子の高梨は、男女の枠を超え、史上最多のワールドカップ61勝を誇る。間違いなく歴史に名を残すジャンパーの経歴に、ただ五輪金メダルだけが足りない。17歳で乗り込んだソチは4位に、平昌は銅メダルに終わった。

北京には好感触を手に乗り込む。今年の元旦、1月1日には約1年ぶりのワールドカップ勝利を手に入れた。1月後半にはコンチネンタルカップに参戦し、2連勝も得た。高梨が快挙を果たす準備は、ついに整った。

ベテランとして悲願の金メダルを目指す渡部暁斗

1990年代、ノルディック複合も、やはり日本が最強を誇った。荻原健司率いる日本代表は、2大会連続で団体金メダルを持ち帰った。しかし、複合の「個人戦」で金メダルを手にした日本人は、いまだ存在しない。

だからこそ渡部暁斗にとっても、日本にとっても、個人戦での金メダル獲得は歴史的快挙となる。33歳の大ベテランは、すでに銀メダルなら2つ手に入れた。人生最後の挑戦、と心に決めて臨む北京で悲願を成就したい。

海外強豪選手:若き才能が次々と台頭も新型コロナが影を落とす

カール・ガイガーとマリウス・リンドヴィク

ワールドカップ総合首位として大会に乗り込むカール・ガイガー(ドイツ、画像左)や、昨季ワールドカップ総合覇者のハウヴォルエグナー・グランルード(ノルウェー)が、ジャンプ男子で小林陵侑と並ぶ優勝候補に名を挙げられる。

長年に渡って男子ジャンプ界の頂点に君臨し、ソチで個人金メダル2つ、平昌で個人金+団体銅に輝いた34歳カミル・ストッフ(ポーランド)は、今季絶不調に加え、1月序盤に足首を痛めてはいるものの、王者の経験と勝負強さを決して侮ることは出来ない。

ただし、最も手強いライバルはマリウス・リンドヴィク(ノルウェー、画像右)に違いない。ちょうど1年前の冬に、人生初めてのワールドカップ個人勝利を手にしたばかりの23歳は、2022年に入ってから個人戦7戦で優勝3回+表彰台3回ととてつもない勢いで突っ走っている。

ジャンプ女子は今季ワールドカップ11戦で6勝をあげ、20歳のマリタ・クラマー(オーストリア)が新型コロナの陽性判定で欠場となった。大本命が不在となったが、昨季総合優勝を収めたニカ・クリジュナル(スロベニア)や、平昌銀メダリストのカタリナ・アルトハウス(ドイツ)が、高梨とともに金メダル争いに加わるはずだ。

まさかのコロナ陽性で出場が危ぶまれるヤール・マグナス・リーベル

渡部暁斗がノルディック複合で2大会連続銀メダルを手に入れたのだとしたら、2大会連続で金メダルを持ち帰ったのは、エリック・フレンツェル(ドイツ)だ。ただし、33歳のベテランを押しのけ、平昌後の過去3シーズンを圧倒したのは、24歳の若きヤールマグヌス・リーベル(ノルウェー、上記画像)。3シーズン連続ワールドカップ総合優勝、世界選手権2勝。なによりワールドカップは昨1月半ばから出場した個人は13連勝と、無敵の行軍を続けてきた。

しかし、北京に乗り込む直前にリーベルはなんと2大会連続で勝利を逃してしまった。さらに2月3日に新型コロナウイルス陽性が判明したため、出場そのものが危ぶまれている。代わりに20歳のヨハネス・ランパルター(オーストリア)が、ワールドカップ首位に躍り出た。若き勢いに乗って、五輪でも主役の座へと駆け上がってしまうかもしれない。

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宮本あさか